投信の商品多様化

 11月6日の日経新聞にメリルリンチ証券がローンに投資する投資信託を販売することが報じられていた。詳しい記事内容はこちらを参照してもらいたい。

 この記事で、いくつか考えなければならない事がある。第一は金利上昇へのリスクにどう対応するかという点である。ご存じのように債券は金利が下がれば価格が上昇し、金利が上がれば価格は下落する。特に投資信託のように、日々、時価で評価して基準価額を計算する商品にとって、このことは重要である。現在金利は過去最低水準まで低下している。債券を購入して最後まで持つのであれば、この後金利が上がろうが下がろうが、現在の金利を償還まで享受することになる。しかし、時価評価する投信の場合、金利が上がれば、債券価格の下落という形で基準価額を引き下げることになる。特に現在のような低金利の場合、金利上昇のリスクは高くなる。このリスクに対し、この商品は変動利付きローンに投資して金利上昇に備えるとしているのだ。

 変動利付きの債券に投資するファンドは、このファンドが最初ではない。いくつかの投信会社でフローターファンドという名前のファンドがあるがこれは、変動利付債へ投資するファンドである。つまりフローターとは、金利が上昇すれば、支払われる利払いもこれに連動して増え、逆に金利が下落すれば、これに連動して利払いが減少する債券である。そのため、金利の上昇に対して債券価格はそれほど変動しない。つまり金利が上昇したとしても、その分利払いが増えるので債券の価格が値下がりすることはないのである。

 投信の投資家として金利上昇へ備える手段は、それほど多くはない。MMFのように、短期金融商品で運用する商品か、中国ファンドや公社債投信のように予想利回りの表示される商品、そして債券ベアと言われる、債券先物を空売りする商品くらいであろうか。株式と違い債券は利払いがあるので、債券価格が下落したとしても、ある程度の期間を経ればそれほど大きな基準価額の下落にはならない。しかし、基準価額の上昇が抑えられるのは事実である。

 そこで、他に金利上昇に備える商品がないだろうかというのが第二点目である。米国であれば、この他にも金利上昇に備える商品がある。IOと言われる商品である。米国では住宅ローンを証券化し、モーゲージ証券として資産運用の対象となっている。これは面白い債券だ。住宅ローンを証券化しているため、債権の発行総額が徐々に減少する。ローンを借りた人達がこれを返済するからである。金利が低下すれば、低い金利のローンに乗り換えるため、返済は多くなるし、金利が上昇すれば、ローンを借りている人達は、このローンで安心して他に乗り換えようとしないため、貸した側からすれば当初見込んだ通りの利回りを確保できることになる。そしてこのモーゲージ証券を利子部分と元本部分に分けたものが、IO(Interest Only)とPO(Principal Only)である。IOは住宅ローンの利子部分であるので、金利が下がれば、住宅ローンをみんな返済するので利回りを得ることが出来ない。つまり値下がりする。そして金利が上昇した場合はその逆、つまりIOの価格は上昇するのである。

 こういった商品があれば金利上昇に備えるためのファンドも、より多様性を増すことが可能になる。しかし、日本には現在こういった商品はない。今回話題にしている、メリルリンチ証券が販売する投信も、企業が発行する変動利付きローンに投資するとのことだが、こういった投資対象が日本には無いのである。つまり、日本で投信の商品多様化をすすめるためには、まず日本の有価証券市場を幅広いものにしていかなければならないのである。投信の規制緩和で商品の多様性はそれほど広がらない。せいぜいリスクをより高めた商品を設定できるようになったくらいである。それよりも、有価証券市場そのものの規制を緩和していかなければならないのである。いわゆる"証券化"を、あらゆる面で押し進めることが、投信の商品性を多様化する最大の方法なのである。

 


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