#75 懲りない原発推進論者たち


総合エネルギー調査会中間報告で、通産省は新たな総合エネルギー政策で、原発推進を確認。
日立、東芝(系列の石川島播磨)、三菱重工にとって良いことなのか、どうか。国が原発をやめると言ったほうが、この部門のリストラ は進めやすいのではないか。報告では新たに50基建設する必要があるといっている。これでは、やめるにやめられないのでは。

昨年の暮れには、台湾の住民が日本に乗り込んできて、東芝、日立の本社前で、反原発を訴えた。アジア諸国は、官僚主義国が多く、 官僚と話をつければ、何でも有りであり、住民の反対で自国での原発建設が難しくなっているフランスを除く先進国メーカーにとって、 アジアは格好の餌食だ。

では、本当に、この官僚たちや電力会社にまかせて大丈夫なのか。
東京万華鏡から桜井 淳さんの文章を拝借する。


あいまいで危機管理能力なき日本人の安全感覚

桜井淳(技術評論家)

(さくらい・きよし):  物理学者、技術評論家。10年間にわたり日本原子力研究所の材料試験炉の炉心核計算を担当、その後4年間にわたり原子力安全解析所で副主任解析部員として原発の安全解析に従事(関西電力の大飯原発3号機および同4号機、中部電力の浜岡原発4号機、東北電力の女川原発2号機のクロスチェック安全解析に携わる)。88年以降、技術評論家としてシステム安全論を中心に論文、著書を発表。

 阪神大震災の混乱の続いていた昨年の2月22日、筆者は、内閣官房内閣安全保障室の要請を受け、坪井龍文室長以下20名の室員を対象に、「世界の原発の危機管理」と題する2時間半の講演を行った。

 内閣安全保障室では、阪神大震災での危機管理に完全に失敗したため、絶望感と焦燥感にかられ、改めて事故時の社会的な影響力の大きないくつかの技術分野の現状把握に懸命であった。筆者は、特に日本の原発の耐震性について技術分析し、いくつかの懸念すべき問題点を指摘しておいた。原発の耐震性でいちばん懸念すべきことは、老朽機の耐震評価法がまだ確立していないことである。

老朽原発の耐震性が見えない

 地震地帯の福井県若狭湾には、すでに20年以上経過した老朽機が5基も運転中であるにもかかわらず、原子力安全委員会(都甲泰正委員長)は、阪神大震災直後、耐震部会(小島圭二部会長、東大教授)を設置して現行耐震設計指針の見直しをしておきながら、阪神大震災で破壊の原因になったシステムの老朽化に完全に目をつむり、これまでの指針の妥当性を強調するだけで何ら積極的な安全対策を示そうとしなかった。

 日本では、現在、49基の原発が運転中であるが、その半分以上は注意すべき地震地帯にあり、老朽化も進行している。原子力安全委員会がこれまでの認識を改めない限り、老朽機は、今後ますます社会の脅威になるにちがいない。もはや国民は、一部の専門家にすべてを委ねたのでは安全が守れないことをさとるべきである。

「もんじゅ」事故とでたらめな安全審査

 動力炉・核燃料開発事業団の所有する高速増殖原型炉「もんじゅ」で、昨年12月8日、まだ原子炉出力40パーセントで試運転中であったにもかかわらず、液体ナトリウム漏れにともなう世界でも屈指の火災事故が発生した。

 液体ナトリウム漏れの原因は、冷却材の液体ナトリウムが流れる配管に溶接されていた温度計の保護管が、流れの影響で共振現象を起こして破壊してしまったためである。その温度計は、事故が起こるまで運転条件を模擬した実験や計算が実施されていなかったことが判明した。何たる無責任。いまの安全審査では、いくら欠陥技術が持ち込まれてもそれを摘発することはできない。だから危ないのだ。国民はこのことをさとるべきだ。

 科学技術庁は、事故の5日後、まだ事故の規模と影響が十分に把握されていない時、原子力施設事故・故障等影響度評価委員会を開催した。その委員会の委員長は能澤正雄氏(高度情報研究機構)、委員は、市川龍資(日本分析センター)、川上泰(原研)、草間朋子(東大)、塩見哲(電力中研)、辻野毅(原研)、小山兼二(動燃)、飛岡利明(原研)、野村保(動燃)、藤井靖彦(東工大)、松本史朗(埼玉大)、石塚信(原安センター)の各氏。これらの委員は、すべて科学技術庁技術顧問であるが、おどろくべきことに、12名中事故当事者の動燃の専門家が2名も含まれている。中には原子力推進側の通産省技術顧問と原子力規制側の原子力安全委員会専門部会委員を兼務している者もいる。

 委員については、社会からあらぬ誤解を招かぬよう、もっと公正に広い専門分野から適任者を選任すべきではないか。そしてそれぞれ推進の役割と規制の役割を果たす専門家を明確に分離して考えるべきではないか。そうでなければ安全は守れない。

「もんじゅ」の事故は「レベルゼロプラス」?

 科学技術庁は、「もんじゅ」の事故を国際事故尺度に則り、暫定的に「レベルゼロプラス」と評価したようである。国際事故尺度では、レベルゼロからレベル3までを異常な事象、レベル4以上を事故と定義している。レベルゼロとは、「尺度外(Deviation)であり、安全上重要でない」となっている。レベル1とは、「逸脱(Anomaly)であり、通常運転領域からの逸脱。これらは、機器の故障、人為ミスまたは不適切な手順に起因すると考えられる」となっている。レベルゼロプラスとは、「レベルゼロよりは厳しいが、レベル1ほどではない」の意であろう。

 国際事故尺度は、*作動した安全系の種類、及び、*労働者の被曝量、*環境への放射能の影響などを総合的に考慮して定められているが、今回のような原子炉二次系の事故では、*と*が関係しないため、実際に起こった工学的な現象の深刻な側面がすべて埋もれてしまうような結果になってしまう。国際事故尺度は、火災事故のこわさを考慮に入れていない。いままでに明らかになった事実関係を総合的に評価したならば、誰しもレベルゼロプラスとは解釈していないはずである。著者は、事故直後からレベル2と評価していた。現実的にはレベル2であろう。

 事故評価については、科学技術庁や動燃などの事故に関係する機関が実施すべきではない。もし科学技術庁がこれまでの暫定的な評価結果を改めないならば、国民の目にはさらなる事故隠しと映り、全面的に信用を失うことになるだろう。

事故を生んだ体質にけじめを

 科学技術庁安全局「もんじゅナトリウム漏えい事故調査・検討タスクフォース」【能澤正雄主査(高度情報研究機構)、委員は、朝田泰英(東大)、荒克之(原研)、入江宏定(金材研)、白石春樹(金材研)、中村治方(発電技研)、宮崎慶次(阪大)の各氏】及び原子力安全委員会事故調査部会「高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えいワーキンググループ」【平岡徹主査(電力中研)、近藤達男(東北大)、井上晃(東工大)、中桐滋(東大)、永田徳雄(原案センター)、矢川元基(東大)、八木晃一(金材研)】には、「もんじゅ」の安全審査にかかわった者も含まれているが、この際、マッチポンプ方式ではなく、きっぱりとけじめをつけておくべきではないか。中には通産省技術顧問と科学技術庁技術顧問、原子力安全委員会専門部会委員を兼務している者もいる。

 あいまいな日本のあいまいな事故調査。作家の大江健三郎氏でなくとも、筆者のように寛大で忍耐強い人間でもこのようなあいまいな事故調査は認めがたい。

(2/12/96)


また、講談社+α文庫「通産官僚の破綻」並木信義著(元通産省課長)の第5章(p202〜239)「無責任かつ安易なエリート集団」の結びは、 「人任せで、無責任で、安易な、従来の姿勢では、原発路線を維持発展させることはきわめて困難だと思われるがいかかだろうか。」と結ばれている。

冒頭の報告の審議過程で、中西委員(横浜国大教授)は「東電などにとり原発開発は迷惑」「原発は国の機関に一元化し、電力会社は国の生産する原発の 電力を購入する形にできないか」と発言。政府側の識者にも、市場原理重視、規制緩和の立場から原発推進の矛盾を指摘する声があることが明らかになりました。

東電といえば、原子力発電の開発体制を命じた当時の木川田社長は、最初、 「原子力はダメだ。絶対にいかん。原爆の悲惨の洗礼を受けている日本人が あんな悪魔のような代物を受け入れてはならない」と言っていた。なぜ、彼は豹変したのか。




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