Mail#95 無借金


 証券理論においては、株式(自己資本)は、負債(他人資本)に比べてコストが高い ことになっている。どうも、一般の方には、理解しがたいようである。特に、資金繰り に苦しみ、無借金体質を作り上げた会社の経営者また、その従業員には、格別に理解しがたい 部分であるようだ。
 ある程度の借金をし、事業拡大することは、悪いことではない。 逆に借金して、事業拡大するということは、その事業が、借入金利よりも 収益性が見こめるからであると思われる。その一方で、自己資本で事業拡大 を行う場合、実際問題として、資本コストの算出を行い、その資本コストと 事業の収益性を比較して、拡大するか否かを決定している会社は、まだまだ少ない のではないかと思われる。事業拡大にあたって、借入や社債で、資金調達 する場合の方が、意外と綿密に計画を立てて、取り組んでいる。
 株主にとっても、増資で、事業拡大を行う企業よりも、他人資本で事業拡大を 行う方がメリットがあるのである。(もちろん、収益が調達コストを上回ることが 前提であるが。)

 今、全くうりふたつの企業、A社とB社があったとしよう。 両社とも10%の自己資本利益率で、100億円(50円額面:発行株式数2億株)の自己資本 である(ってことは、10億円の税引後利益ってことである)。 これらの企業が社債を3%の金利で発行できるとする。 そして、事業拡大のためにあと50億円必要になったとする。この事業の収益性は50億円の 投資で、税引後で年5億円とする。
A社は、額面増資で対応した。すると自己資本は150億円になり、税引後利益は15億円になった。 自己資本利益率も10%のままである。
B社は、社債で調達した自己資本は100億円のままで、税引後利益は15億円−50億*3%= 13.5億円となり(支払金利が発生すると、その分納税が減るため、税引後利益は、これよりも 高くなるが、ここでは支払金利の節税効果は考えない)、A社よりも少なくなったものの自己資本 利益率は13.5%に向上。B社の一株当りの利益は6.75円と、A社の5円を1.75円を 上回ったのである。
 また、社債を発行することで、格付け機関からのチェック(借入なら金融機関から)の外部チェックを 受けることになり、多少、借金してもらった方が、株主としては安心感も得られるのである。
 この程度の説明で、無借金企業信奉者の考えが変わるとも思えないが、 無借金だから「いい会社」っていう短絡的な発想は捨てた方が賢明。




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