#2-26 米国原発事情


以前より、国民の合意なしに進められてきた原子力を批判してきたが、今日は資本主義的観点からもコスト面で割に合わないということをアメリカの状況を報告することで説明したい。10月26日は「原子力の日」で、これから原子力のキャンペーンでもやるのだろが、皆さんは権力と金にまみれた電力会社の言い分には耳を貸さないでもらいたい。
米国の原子力発電所(以下、原発)は認可運転期限が連邦法で40年と定められてい るが、最近、その期限を前にして閉鎖に追い込まれる原発が出てきている。具体的に は、一昨年、カリフォルニア州のサン・オノフレ発電所(操業24年)、ミシガン州の パリセイズ発電所(同20年)が運転を停止したのに続き、昨年には、コネチカット州 のコネチカット・ヤンキー発電所(同30年)、今年に入って、メイン州のメイン・ヤンキー発電所(同29年)が閉鎖を決定した。さらに、イリノイ州のゼオン発電所(同24年) やニュージャージー州のオーセター・クリーク発電所(同28年)も閉鎖を検討している 。
 これは、原発の運転コストが増加しているからである。これまで原発といえば、建設コストこそ巨額だが、稼働してしまえば、運転コストは、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を電源とする発電所に比べ割安といわれ、事実、原発は、1957年の開業以来、現在106カ所が運転、電源構成シェアも22%と石炭火力に次ぐ地位を築いている。だが、78年のスリーマイル島、86年のチェルノブイリの原発事故を契機に、既存原発の保守・点検体制が一層強化されると同時に、原発の老朽化が徐々に進み、原子炉当たり2〜3億ドルも要する蒸気発生装置や核分裂反応塔の修理や交換が避けられなくなっている。この結果、80年代半ば以降、化石燃料を電源とした発電所の運転コスト(2.25セント/Kwh)がほぼ横道いで推移 しているのに対し、原発の運転コストは2割も増加、化石燃料とさほど変わらない水準(2.13セント/Kwh)にまで達している。米国電力業界は、従来の地域独占が徐々に崩れつつある規制緩和に直面しているだけに、安全面で金と手間の掛かる老朽原発を廃棄せざるを得なくなっているのである。

運転コスト 建設コスト 合計
原発 2.13セントKwh 2.65セントKwh 4.78セントKwh
化石燃料 2.25セントKwh 1.38セントKwh 3.63セントKwh
水力 0.5セントKwh 2.6セントKwh 3.1セントKwh
再生エネルギー 2.84セントKwh 3.93セントKwh 6.77セントKwh

 こうしたなか見逃せないのは、以下の事情から、経済効率の高い原発すら廃棄に追い込まれる可能性が出てきている。米国の電力会社は、カーター政権時代に核拡散防止の観点から、原発運転中に発生する高レベルの放射能を含んだ「使用済燃料」を再生処理を施さず、発電所敷地内で管理することを義務づけられている。政府としても、来るべき貯蔵施設不足時代に備え、87年に、@原子力廃棄物政策法(Nuclear Waste Policy Act)を改定、恒久的な貯蔵施設を2010年までに稼働させる、Aそれまでの一時的な貯蔵施設を1998年までに建設する、との目標を定めた。その立地選定作業は難航を極めたものの、電力業界の強力なロビー活動により、今年に入り、ヤッカ・マウンテン地域(ネバダ州、ラスベガスから北東100マイルに位常する)に一時的な貯蔵施設を建設するという法案が議会を通過する見込みである。しかしながら、貯蔵施設の安全性が完全に証明されていないとの理由で、クリントン大 統領は拒否権を発動する構えを崩していないし、何よりも200億ドル近い貯蔵施設建設費用を誰が負担するかという問題が手つかずに残っているだけに、「今世紀中に一時施設の建設が開始されることは望めそうもなく、貯蔵施設不足が原発の操業に大きな影響を与えると予想される。もちろん、電力需要が年牢1〜2%程度のピッチで増加するとみられるなかで、原発が廃棄されれば電力供給に安定性を欠くとの声もある。ただ、@90年に成立した改正大気浄化法により、供給能力の縮小が懸念されていた石炭火力発電所が、亜硫酸ガス排出の少ない低硫黄炭を利用することで環境基準をクリアし、引き続きベースロード電源として揺るぎない地位を築いている一方(電源構成別シェア:90年55%→96年58%)、A環境に優しい天然ガスを電源とする発電所の建設が活発化していることから、発電能力もまずまずの伸びを示すとみられる。こうした結果、2005年までに、貯蔵施設不足から少なくとも10〜15カ所程度の原発(原発の総発電能力の1割に相当)が運転停止に陥るとの見方が支配的になっている。




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