★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ ★★★★  投資信託入門 その13  ★★★★ ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 今回は、外債ファンドと為替ヘッジについてご説明いたしましょう。 まず、日本の長期金利は90年秋口以降、徐々に低下し、現在は、過去にはなか ったような超低金利となっています。現在の金利水準を世界各国で比較して みましょう。8月8日時点での、満期が5年前後の債券の利回りを比べてみる と、日本が突出して低いことが分かります。  国名    利回り 満期までの期間 オーストラリア 6.18% 5.61年 カナダ     5.73% 6.09年 フランス    4.97% 6.01年 ドイツ     5.06% 5.81年 日本      1.78% 5.92年 イギリス    7.11% 5.56年 アメリカ    6.29% 5.82年 (出所:JPモルガンのサイトより) お金を借りる側にしてみれば、この低金利はとても有り難いわけですが、お金 を増やす側からしてみれば、この低金利では、お小遣いすら稼げません。それ ならば日本に比べ金利の高い海外の債券を買おうと考えるのは、自然の流れで しょう。しかし、外国の債券を買うと当然、為替のリスクが生じるわけです。 ここで、為替の変動がどのくらい変動すると(円高になると)外債投資のメリッ トが無くなるのか検討してみましょう。 米国の5年ものの債券が6.2%としましょう。5年間で100円の投資は100円+ 6.2円×5=131円になりますよね。(単利で計算してますので、もらったインカ ムの再投資は考慮しません。)そうすると、約3割為替でやられたとしても、元 本は割れません。しかし、日本で債券に投資しても5年間で1.7%程度は稼げる わけですから、単純に計算しても、(6.2-1.7)×5年=22.5となりますので、為 替で2割以上やられる(円高になると)米債に投資したメリットはなくなると言う ことになります。現在の円ドルレートは114円ですから、2割円高、つまり90円 以上の円高では米債に投資したメリットはなかったと言うことになります。 ここで、一つの選択をしなければなりません。円高にならないとの見通しを 持って、米債に投資する。(円高になったときは損失となることをふまえた上で と言うことですね)次は外債投資を諦めるまたはあきらめて国内債への投資を考え る。そしてもう一つは、為替のヘッジをすれば良いじゃないかと言うことです。 そこで為替のヘッジについて解説します。債券への投資の場合、償還まで保有す ると償還日にいくらもらえ、また利払い日にいくら貰えるかと言うことは購入時 にはわかっています。(ディフォルトなどが起これば別ですが)そうすると、将来 貰えるであろう元本及び金利分を、今からドルを円に換える約束を結んでおくわ けです。そうすれば、今後為替が円高に振れたとしても、その動向とは関係無し に、債券の償還日に得たドルを、当初に約束したレートで円に換えることが出来 るわけです。より詳しくは、他の為替関係のサイトに譲ります。しかし、為替の ヘッジにはコストがかかります。ただで、ヘッジは出来ないのですよ。そして、 為替のヘッジコストは二国間の金利差によって決まると言うことを、覚えて下さ い。つまり米国の5年債の利回りが6.2%、日本の5年債の利回りが1.7%とする と、米ドルの5年間のヘッジコストは6.2-1.7=4.5%になると言うことです。そ うすると、米債に投資しても為替ヘッジをすると国内債に投資するのと結果は同 じになるわけです。これでは、外債に投資する意味はありませんよね。ではどう したらよいのでしょう?外債へ投資する投資信託の場合は以下の方法でファンド としての魅力を高めようとしています。 @円高になるときだけヘッジをする。→そんな上手くいくはずがありません。結  局、ファンドマネージャーの相場観や、運用会社の構築したシステム的な運用  によってヘッジをしたり、ヘッジをはずしたりするわけですが、あたり続ける  ことなどあり得ないわけです。 Aやっぱりヘッジはしない。→ヘッジをせずに外債へ投資し、為替には目をつぶ  る。ちょっとファンドとしての魅力には欠けますね。これだったら、自分で外  債に投資しても一緒です。株と違って、債券の場合一国への投資でしたら分散  投資というメリットは生まれませんから。 Bヘッジをして債券の値上がり益(金利が下がれば債券は値上がりする)を狙う。  →基本的に為替ヘッジを行い、金利収入だけでは、国内債券投資と一緒になり  ますが、長期債への投資によって、金利低下時の債券値上がり益を狙う。また  は、ファンドマネージャーの相場観によって、金利低下時のみ、債券投資を行う。 一般的なアクティブファンド(ファンドマネージャーの判断によって投資を行う) の場合、@及びBを駆使して、より高い利回りを目指そうとします。しかしその 場合、ファンドの設定時には、どれくらいの利回りが得られるかが全く分かりま せん。とにかく、ファンドマネージャー、または運用会社の実力次第、また信託 期間中の金利動向次第(どこの国の金利も中期的な上昇傾向にある場合、なかなか 収益を上げることは出来なくなります。)ということですね。 Cそこで海外の高金利を享受しながら、為替のリスクも回避する方法はないもの  かと、各運用会社は知恵を絞っており、いくつかのファンドが登場しているわ  けです。そのうちの一つであり、多くの運用会社が採用した、または現在採用  しているのがクロスヘッジという手法です。 そこで、クロスヘッジについて解説しましょう。 ヘッジコストは上でも述べたように日本とヘッジしたい為替の国の金利との金利 差で決まります。ですから、為替ヘッジをして外債投資をしても海外の高金利を 享受することが出来ないわけですが、そのコストを引き下げることが出来れば、 十分海外の高金利を享受することが可能になるわけです。 例えばA国の金利が7%、B国の金利が10%、そして日本の金利が2%としまし ょう。A国の為替をヘッジするには7%−2%=5%、B国の為替をヘッジする には、10%−2%=8%のコストがかかりますから、為替ヘッジをするとA国の 債券への投資もB国の債券への投資も結局日本の債券への投資と変わらないわけ ですが、A国の為替とB国の為替が同じ様な動きをするとしたらどうでしょう? B国の債券へ投資してA国の為替でヘッジすると、B国の金利10%、ヘッジコス ト5%となり、利回りは、10%−5%=5%となり、日本の債券へ投資して得ら れる2%よりも有利になります。 東南アジアの国々の中には米ドルとの連動を標榜している国がたくさんあります。 またヨーロッパは将来の通貨統合を目指して、現在もお互いの通貨の変動をある 一定の枠内に納めようとしています。これを利用して、高金利通貨の債券を購入 し、一番金利の低い国の通貨でヘッジすることで、日本国内の債券へ投資するよ りも魅力的な利回りを得られることが出来るわけです。また、設定当初より、ど れくらいの利回りが得られるかが想定できるのも魅力ですね。 しかし、しかし、しかし! 過去、これらのファンドは大抵、設定当初のもくろみを達成できずに終わってい ます。つまり考えることは世界各国同じ訳で、同様の投資をする人たちが全世界 にたくさんいるわけです。そのため、何らかの問題が起きて、通貨の連動性が薄 まったとき、薄まると想定されたときにはこぞって反対売買を行うために為替の 変動が予想以上になってしまうのです。 そして、クロスヘッジは、通貨が同様の動きをすることが前提ですから、この前 提が崩れたときには、相当の損失となってしまうのです。某銀行の試算では、元 本割れどころか、基準価額そのものが消滅(つまり、基準価額が0円以下)してし まうとの結果が得られたそうです。これはあくまでも理論的な話であって、その 前に、運用会社の判断でそうならないよう、ヘッジをはずすなりポジションを減 らすなりの動きをとるでしょうが、元本の安全性までは確保できませんし、当然 当初見込んでいた利回りの達成は期待できないことはいうまでもありません。 つまり、このようなクロスヘッジをするファンドの場合通貨の連動性が前提であ り、それが崩れたときには、当初期待した利回りは達成でき無い上、元本が割れ ることも大いにあり得ると言うことを理解した上で投資されることをお奨めしま す。