★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ ★★★★  投資信託入門 その9  ★★★★ ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 今回は、マーケットリスクと個別銘柄のリスクについて解説します。 前回の解説で個別株が上がるか下がるかというリスクについては分散 投資でリスクを低減できるが、市場全体が上がるか下がるかというリ スクは分散投資では低減不可能なのだというお話しをしました。 個別銘柄がマーケットリスクに対してどの程度反応するのかを示した 指数にβ(ベータ)値というのがあります。β値とは市場全体に対して 個別銘柄がその何倍の値動きをするかという値です。例えば市場全体 が10%上昇したときに、A社の株価は20%上昇したとしたらβ値は2.0 、同じく市場全体が10%上昇したときにB社の株価は、5%しか上昇し なかったら0.5です。またこのβ値は加重平均することが出来ますので A社の株式を60%、B社の株式を40%保有したとしたら、ポートフォ リオ全体のβ値は2.0×0.6+0.5×0.4=1.4となりますので、ポートフォ リオは、市場全体が10%上昇したときには14%の上昇となることが分 かります。 当然、ポートフォリオのβ値が各銘柄のβ値の加重平均で求められると 言うことは、ファンドのβ値も保有銘柄から類推することが出来るわけ です。しかしながら、私の過去の検証では、保有資産のβ値の加重平均 からファンドのβ値を計算するよりも、基準価額の動きとインデックス の動きから、直接ファンドのβ値を計算した方が実感に近いものでした。 この理由は@実際の運用においては、銘柄の入れ替えを行っているため、 一時点でのポートフォリオからβ値を計算するよりも、ファンドの値動き からβ値を計算した方がファンドマネージャーのリスクの取り方は一定の ため、実感に近くなる。A銘柄のβ値は変化するため、一時点でのβ値が 将来のβ値を表すわけではない。そのため、一時点での各個別銘柄のβ値 を加重平均して計算したファンドのβ値では、ファンドマネージャーの 各銘柄に対する将来の期待β値との間には著しいギャップを生じることが 多い。等が理由として挙げられるのではないかと考えております。 ですから、β値をもとにファンドのリスクを計測し、どのファンドを購入 するかを検討する場合には、保有資産を吟味するよりは基準価額の動きそ のものから推測するべきだと思いますよ。ただ、市場全体が上昇している ときと、下落しているときでは、β値が違いますので、市場全体が上昇し ているときと市場全体が下落しているときに分けて、それぞれβ値を計算 すれば、そのファンドのリスク度合いが見えてくるのではないでしょうか。 ちなみに何故、上昇時と下落時に分けるかというと、ファンドの基準価額が 基本的に下方圧力がかかっているためです。つまり、売買コストや、信託 報酬などの期間コストが発生しているために、上昇時と下降時では、β値に 与える影響が±逆転するわけです。例えば市場が10%上昇した場合に期間コ ストが1%かかるインデックスファンドは10%−1%で9%の上昇となり β値は0.9となりますが、市場全体が10%下落したときには-10%−1%で 11%の下落となるため、β値は1.1となりますよね。 また、一般的なアクティブのファンドでは、100%が株式組入れの上限とな りますので、組入比率の調整によってβ値を調整しようとすると組入比率が 100%より低いところで調整せざるを得ない、つまりβ値が1以下のところ で調整するしかないわけですので、リスクを取りにいく(インデックスに勝 とうとする)ファンドマネージャーほど、β値を低くするわけで、これが市 場全体の上昇時に、いかにβ値を1に近いところまで戻せるかが、勝負にな ってくるわけです。 今まで市場全体という表現をしてきました。日経平均はわずか225種の動き を表したものですから、市場全体とはほど遠いですね。TOPIXも一部上場銘 柄の株価を反映したものですから、二部や店頭公開銘柄の動きは反映してお りません。しかしながら、日経総合株価指数というのは、あまりにもマイナ ーですから、一般的には日経平均225種、またはTOPIXを市場全体の動きと考 えて、β値を計算することが多いようですよ。 ここで、指数の性格について簡単にまとめておきましょう。  ●日経平均225種・・・225銘柄の株価を単純平均したインデックスです。   計算当初は対象225銘柄の株価を全部足して、225で割った求めたわけで   すが、株式分割や、銘柄の入れ替え(上場廃止のためや、流動性欠如によ   るもの、そして、産業構造の変化によるものと、理由は様々ですね。)に   よる、調整をおこなってきたため、現在は225銘柄の株価を全部足して、   10ちょっとの数で割ってます。この分母に来る数を除数と言います。簡   単に計算方法を示します。   まず計算当初225銘柄全てが、1,000円だったとしますと、日経平均は   1,000×225÷225=1,000円となります。で、次の日に、225銘柄全部を   800円の株価の銘柄に入れ替えしたとします。(こんな事あり得ないけど)   そうすると、800円×225÷225=800円と計算すると、銘柄入れ替えのため   に、日経平均は1,000円から800円に値下がりしてしまいます。これでは、   連続性が保たれませんので、連続するように、割る数(この例では225のこ   と)を調整するわけです。   1,000×225÷225=800×225÷α とおいた式のαを求めると   α=800×225÷(1,000×225÷225)    =180   となりますので、除数は225から180になる訳です。ではこの除数で日   経平均を計算すると、800×225÷180=1,000円となり、日経平均が銘柄   の入れ替えによって不連続にならず、連続性が保たれたことになります。   ちなみに、NYダウが先週17日に4銘柄の入れ替えがありましたが、NY   ダウは、日経平均と同じ様な計算方法で計算されていますので、当然、入   れ替え日に除数の調整が行われたわけです。   さきほど、日経平均の除数は10ちょっとだと書きましたが、これは、   一つの銘柄が100円上昇すると100÷10で10円の影響があります。ソニーが   200円上昇すると、日経平均に20円の影響があるわけです。で、NYダウ   の場合、これが0.3位なのです。つまり、ディズニーの株が1$上昇すると   1÷0.3で3$ちょっとの影響があるのです。で、今回入れ換えられた銘柄   はどれも、株価の低い銘柄で、新しく入った銘柄は株価の高い銘柄が多い   ためこの、除数を引き上げる、つまり、一銘柄の株価の動きのNYダウに   与える影響を小さくする効果があります。  ●東証株価指数(TOPIX)・・・日経平均が純粋に株価を使って単純平均したの   に比べ、この指数は時価総額を使います。時価総額とは、株価×発行済み   株数で計算されますが、要はその会社の株式を全部買ったらいくらになる   の?という数字です。で、これを一部上場銘柄に関して全部足して、指数   化したものが、TOPIXです。いつかは忘れましたが、特定の日付の時価総額   の和を100として指数化しております。当然、時価総額が大きい銘柄の影響   が大きいわけで、これに連動させようとすると、時価総額の大きい順に株式   を買っていけばおっけーです。しかし、全銘柄を買うためには途方もない資   金が必要になります。短期的には100〜200銘柄ほど、時価総額の大きい銘   柄を、時価総額の比率と同じ比率で買い付ければ、だいたいTOPIXと同じよ   うに動きます。しかし、長期的に見ると、小型株が、どんどん成長して株価   が上がり、大型株になるような銘柄は、銘柄数を絞ってしまうと、対象外   になってしまいますので、長期的にはTOPIXに連動することが難しくなるわ   けです。で、その影響を出来るだけ排除するためには、資産規模を大きくし   て、なるべく排除される銘柄を少なくしたいわけでが、なかなかそれも難し   く、TOPIXにいかに連動させるかは、各運用会社のノウハウになっているわ   けです。そんなわけで、私もこれ以上は書けません。m(__)m   ちなみに、同様の計算をしている指数には、日経300(対象銘柄は300銘柄に   限定されていますが、時価総額を利用して計算する指数という意味では一緒   です。また、米国株ではS&P500が同様の計算をしております。米国の場合   そう言った意味でNYダウは30銘柄と、対象銘柄が少なく、株価の単純平   均の指数であることから、株式市場の指標性としての意味は少なく、S&P500   等の指数の方が、パフォーマンスの比較などには使われますし、ファンドの   ベンチマークとしても、NYダウを使うファンドはまずありません。 今回はこれくらいにしておきましょう。次回は、最近話題になることが多い外国 株ファンドについて、解説したいと思います