第二日目 夜(リー・リトナーと共に)

 題名を見て勘違いしないでください。別にリー・リトナーと酒を酌み交わしたと言うわけではありません。ただ、今とても興奮しています。とても、感動的な夜でした。

 まずは順を追って、話を進めましょう。プラネットハリウッドでの夕食を終え、地下鉄で宿泊先の最寄り駅まで行き、最寄り駅から宿泊先へ歩いているときのことです。帰る途中にブルーノートという超有名なジャズのライブハウスがあるのです。今日は誰が演奏するのかと看板を見ると、なんとリー・リトナー。普段なら「聞きたいけど、どうせ満席だろう。予約もしてないし、追い出されるのが関の山。諦めて帰ろう。」と考えるのですが、今日は違いました。「もしかしたら、立ち見でも中に入って演奏を聴けるかもしれない。とにかく聞いてみよう。」とブルーノートのドアを開けたのでした。

 店員に、「予約はしていないんだけど、席はある?」と聞くと、「大丈夫だよ。」とのこと。「え?え?え?本当に?」「大丈夫だよ」「演奏は何時に始まるの?」「9時からだよ」「じゃぁ、いったん予約できるかな?(宿泊先に戻って、荷物をおいてきたいので。)」「そんな事しなくても、30分以内に戻って来たら、席は取れるよ」。以上のようなやりとりがあったのでした。

 喜び勇さんで宿泊先に戻り、荷物を置いてドル紙幣だけを握りしめ、再度、ブルーノートに向かうその足は、時間には余裕があると思っても駆け出してしまうのでした。ブルーノートに入って、席があるかと聞くと女性の店員が店内を案内してくれました。「そこの席と、あちらの後ろの席と、ここの席が空いているよ。どこが良い?」と聞くのです。空いている席の中には、ステージの真ん前の席もあったのです。当然、ステージの真ん前の席を希望。席に座ると、ベーシストのエフェクターとリー・リトナーが使うと思われるエフェクターが置いてあります。ベーシストの方はBOSSのデジタルリバーブと、BOSSのボリュームペダル、そしてメーカーは分かりませんがコーラスを使っていました。リー・リトナーの方のエフェクターはブラックボックス。16個のフットスイッチがついているだけなのですが、曲ごとに音色をつくって登録してあるのではなく、一つのフットスイッチはディストーション、2番目のスイッチがリバーブ、3番目がコーラスというように、単にエフェクターの種類ごとに割り当てているだけのようです。

 シンガポールスリングを飲んでいるうちに演奏開始の時間である、9時になってしまいました。現れたリー・リトナーはとても小柄な人で、お腹もちょっと出ているようです。(他人のことは言えませんけど・・・。)

 それにしても、目の前、1m以内のところにリー・リトナーがギターを持って立っているのです。すぐには信じられない光景でした。日本にいたら、絶対にそんなシチュエーションは無理でしょうね〜。

 1曲目が始まった途端に、私はハイテンション。目の前でリトナーが演奏を始めたのです。あのフルアコのギターを持って・・・・。感動、感動。涙、涙、涙です。

 私はリトナーのコードカッティングが昔から好きだったのですが、間近で演奏を見て初めて気がつきました。彼は、コードカッティングの時はほとんどピックを使っていない。親指だけで手のひらを広げたまま、コードカッティングをしているのです。その時ピックは、人差し指と中指の第二関節のところに挟めていました。そんな細かいところまで見える席なのですよ。かぶりつき状態。

 全部で演奏曲数は7曲。This Is LoveやRio funk等を立て続けに演奏してくれたのです。カンペまで見えてしまうのですから。私の席は。

 それにしても、リトナーの指使いは柔らかい。早弾きという感じが見ていると全然しないんですが、音を聞くとめちゃくちゃ早いんですよね。彼は早弾きにはまったくこだわっていないと思うんですけどね。早く引けることも表現するための一つの手段というだけなのでしょう。

 リトナーは非常に楽しそうに演奏していました。そして、ベーシストやドラマー、サックス奏者が若手でごくたまにミスることもあるのですが、それを温かく見守っている感じです。

 最後の曲の前に各プレイヤーのソロがあったのですが、この時のドラマーの演奏は圧巻でした。突然ドラムマシンを取り出して叩き出したのです。普通は打ち込みに使うようなドラムマシンを使って、リアルタイムで演奏するのです。曲の途中に入るおかずも全部リアルタイム。はっきり言って、普通にドラムをたたくよりすごいと思いました。まるでパソコンのキーボードをたたく熟練プログラマーのような姿だったのですから。

 そして最後の曲。リトナーがギターでチョッパーベースのような演奏法を披露。ギターのチョッパー奏法で、これだけかっこいい音を聞くのは始めてでした。ベースのチョッパー奏法と同じようにはっきりとして芯のある音色。リトナーに惚れ直した瞬間でした。

 2回目の演奏があるので、アンコールは無し。2回目も聞きたいところでしたが、遅くなると帰り道が恐い。あきらめて、プログラムをもらい、ブルーノートのロゴの入ったマグカップを買って帰路についたのでした。いや〜、今でもあの感動が、胸に残っています。


(注1)リー・リトナー・・・フージョン、ジャズ系のギタリスト。昔は渡辺貞夫とライブ活動をやっていたこともあった。初期頃の演奏である「キャプテン・カリブ」を聞いて私はリー・リトナーの存在を知った。。。。はず。
(注2)エフェクター・・・ギターやベースの音色を変える機械。歪ませた音にするディストーションや詰まった音を作るフランジャー、平らな音を作るコンプレッサーなどがある。
(注3)チョッパー奏法・・・普通ベースを弾く時は人差し指と中指を使うのだが、親指を使って弦をはじきながら弾く奏法
(注4)フルアコ・・・アコースティックギターに近い形のエレキギター。厚さが薄いやつはセミアコ。



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