商工ローン

 商工ローンが社会問題化している。しかしマスコミの反応を見ていると、どうも問題点を混乱しているように見うけられる。中には、「銀行が税金をもらっているのに貸し渋りをしているからこういった問題が起きる」と極端な論調をはるマスコミもあるようだ。そこで、商工ローンの問題点についてまとめてみよう。

 まず、商工ローンは消費者金融とは違い、保証人をたてることで、企業の経営者に事業運転資金を融通する貸付形態である。大抵の場合、数百万円程度の貸付を行っている。

 商工ローンの問題点として、現在挙げられているのは次の3点だろう。
@根保証
A恐喝まがいの回収
B高金利
 このうち、@の根保証は、法律上の問題である。根保証と言う仕組みは、今やマスコミによって散々説明されてきているので、ご存知の方が殆どだろう。しかし、簡単に説明すると以下のようになる。

 Aという経営者が、商工ローンの会社から300万円の借金をしようと思い、Bという友人に保証人になることをお願いした。この時点で、Bは300万円の借金に対して保証するのだと考え、承諾した。その後Aは経営が厳しくなり、1,000万円まで借金の額を膨らませた。Bはその事を知らなくても、Aの会社が倒産した途端、商工ローンの会社はBに対して、1,000万円の借金の返済を要求することができるのだ。これが根保証の制度である。これは商工ローン会社が、法律を悪用しているとしか言いようがないが、この対策のためには、法律を改正するしかないだろう。

 Aの恐喝まがいの回収については言うまでもない。テレビで何度も、「腎臓を売れ!目ん玉を売れ!」と保証人に電話している某商工ローン会社の元社員のテープが紹介されている。これは刑事問題なので司法の場で解決してもらうしかない。更に会社ぐるみである事が立証されれば、何らかの措置が金融監督庁より執られる事だろう。

 最後に高金利の問題である。利息制限法と言う法律では18%強の金利しか認めていない。しかし、この法律は罰則規定がない。つまり出資法の上限金利である40%強の金利まではグレーゾーンとして黙認されているのである。

 マスコミで問題になっている大手二社の金利はほぼ25%程度である。ただ、N社に関しては、手数料を含めるとほぼ30%程度になることを社長も認めている。この金利に対して、高過ぎると批判されているのである。

 しかし、この高金利に対する批判は、単に日本の国民がリスクとリターンと言う関係を理解できないでいる事の証明でしかないと思うのである。銀行は貸付先に対して、元本および利息の支払いが可能であるかどうかを審査する。返せるか返せないか、二者択一である。返済能力がある会社には貸付を行うし、返済能力がないと判断すれば貸付を行わない。二者択一であるから、間違いは絶対に出来ない。そして間違いがない限り、確実に返済される、つまりリスクはないのであるから、貸付金利は、調達金利を上回っていれば問題ないのである。

 これに対し、リスクを考慮したリターンを考える場合は、貸付先の倒産を考慮に入れる。例えば、1年間に10%の倒産の可能性がある、貸付先を考えよう。その会社が1社だけであれば、倒産の確率が10%であろうが、20%であろうが、結果としては、倒産したかしなかったかの二者択一である。しかし、1,000社の同じような会社があれば、10%の倒産確率は、100社の倒産になるはずである。10,000社集めれば、より確実に、1,000社の倒産となるだろう。この確率は同様の会社を沢山集めるほど確度が高くなる。これを大数の法則と言う。

 1年間に10%の倒産であれば、それをカバーできるだけの金利を、これらの会社から取れば良いのである。1年間に10%が倒産すれば、残りは90%だ。これに対して、調達金利を上回る金利を稼ぐためには、10%の金利では足りない。15%の金利でも多分調達金利を考えると、利益は出ない。しかし20%の金利を考えれば、十分に見合うのである。80年代にアメリカでドレクセルバーナム社のミルケン氏もジャンク債に対してこの考え方を使って大儲けをしたのだ。

 つまりリスクに見合ったリターンを考えた場合、25%の金利が高すぎるとは言えないのである。そして銀行にはこのような貸付が出来ない以上、中小企業に対する即日融資は、商工ローンのような会社に頼らざるを得ないのである。20%の金利で借金しても、返せるだけの事業利益をあげられる会社はないはずだと考える人もいるようだ。しかし、何も1年間ずっと借りっぱなしではない。1年間20%の金利でも1ヶ月だと1.7%程度である。数日間だともっと少ない。つまり銀行から借入れが出来るようになるまでの数日間、または数日後に資金が入る予定になっているので、その数日間だけ現金を調達できればと言う事は、中小企業では多々あることだろう。そう言う時には25%の金利でも、ありがたいものであろう。その後に、しつこく営業されなければの話ではあるが。

 マスコミは、商工ローン会社がなくなれば問題は解決すると考えているようだ。しかし、商工ローン会社がなくなれば、逆に中小企業の倒産はもっと増えるだろう。銀行が、商工ローンが相手にしているような中小企業に即日融資できるようなるだけのノウハウを蓄積するのは、相当長い年月が今後かかるからである。

 来年からベンチャー取引所がスタートするから、こういった中小企業向け融資は必要なくなると言った極論を紹介する評論家もいる。何も分かっちゃいない。商工ローン会社が相手にしている中小企業は、ベンチャー企業として投資家から資金を集められるような企業などではないのだ。

 商工ローンの問題に関しては、法律の問題、刑事事件としての問題、過剰営業の問題、そして商工ローンの存在価値と言うのをきちんと、分けて議論して欲しいものである。最後に、私はこの問題の専門家ではないので、ご相談等は勘弁していただきたい。



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