キース・ジャレット

 高校生の時、音楽の授業で初めてキース・ジャレットのカントリーという曲を聴いた。それまでジャズというと、訳の分からない演奏が延々と続くフリージャズしか頭に浮かばなかった私にとって、カントリーという曲は衝撃だった。分かりやすく、それでいて郷愁を誘うメロディーライン。そして、キースのあの雄叫び。キーボードは専門外だった私も、この曲だけはコピーをして(とはいっても最初の部分だけだが)、しょっちゅう弾いていたものだ。

 その、キース・ジャレットのコンサートが昨日、東京文化会館で行われたのです。午後6時に早々と仕事を切り上げ、上野駅へ。上野動物園に隣接するこの会場は、どちらかというとクラシック音楽のコンサートに利用されることが多いようだ。Yahoo!で検索をかけてもオーケストラのコンサート予定がずらりと並んでいる。

 会場にはいると、ステージ後ろの白く丸まった壁や、会場脇の凹凸のある壁が、音響効果を十分に考えられた会場であることを示している。そしてステージ中央にはグランドピアノが一台。そして、キースジャレットが登場。黒のシャツに黒のズボン、黒のサングラス。でも何故か髪の毛だけは白いものが混じっている。キースも歳を取ったんだなぁと感慨にふけってしまった。

 演奏が始まった途端に、会場内はしーんと静まり返った。一粒の音滴も洩らしてはなるまいとする緊張感が会場を覆う。曲名は分からないが、静かな曲とノリの良い曲が交互に溢れてくる。相も変わらず、うめき声を上げながらの演奏、そして、椅子から立ち上がって、足踏みしながらの演奏である。

 40分ほど演奏した後、キースはお辞儀をして舞台袖に引っ込んでしまった。そして場内が明るくなる。「え?もう終わり?いくらソロでの演奏だからといって、40分は短すぎるだろう。」と思ったら、「休憩時間です。」との場内アナウンス。

 第二部もキースは、魂のこもった演奏を続けてくれた。目をつぶって聞いていると、頭の中に、絵画のようなものが浮かんでくる。ピアノの音の中に浸っていると、心地よさが身体をやさしく包んでくれるのである。

 第二部も終わりアンコールの拍手にキースはお辞儀をして応えた。そして、手を合わせて祈りのポーズをした後、すぐに舞台袖に引っ込んでしまった。それでも、アンコールを求める拍手は鳴り止まない。二度三度、舞台に現れてはお辞儀をしては、舞台袖に引っ込んでいったのだが、最後は、にっこり笑ってアンコールに応えてくれた。結局、アンコールは全部で三回。久しぶりに、じっくりと椅子に座って演奏を楽しむことが出来たコンサートだった。



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