国の経済運営

 国の経済運営の舵取りを、優秀な経営者に任せるべきとの論調をよく見かける。実際、優秀な経営者の書いた本は、よく売れているようだし、マスコミにもよく登場し、日本経済をこうすべしとの意見を述べている。そして、我々はその論調を素直に聞き、「日本経済をこういう人に任せればよいのになぁ。」と感じてしまうのだ。私も恥ずかしながら、同様の感想を持っていた。

 しかし、ポール・クルーグマンと言う著名な経済学者は『資本主義経済の幻想』と言う著書(実際には、過去の論文を集めただけなので著書と言って良いのかは疑問だが)で、この考え方をばっさりと切り捨てている。

 その著書によると、企業の運営と国の経済運営は全く違うものであり、企業の経営が上手くいったからと言って、国の経済運営が上手くいくとは限らない。とのことだ。では、どういう点が違うのだろう。

 第一に、企業はオープンシステムの中での運営であるのに対し、国の経済運営はクローズドシステムの中での運営だと言うことだ。つまり、企業の場合ある部門の業績が伸びたからと言って、それが他の部門にマイナスの影響を及ぼすことは少ないが、国の場合は、ある業種が成長するとすると、それは他の業種の犠牲の上に成り立っていると言うことを意味する。

 第二に国の経済規模と企業の経済規模は天と地ほど違うと言うことだ。日本で超大企業と言われるNTTと言えども、日本のGNPと比較すると微々たるものでしかない。NTTの経営が上手くいったからと言って、更に複雑な国の経済運営を、上手くこなせるとは限らないと言うことだ。

 実際、成功した経営者というのは、商機を見つけだし、経営資源を集中するという戦略をとることによって、その地位を確立してきた。しかし、国の経済運営において、核となる事業を選択することは、それほど重要ではない。著者によると、国の経済運営で重要なのは選択ではなく、一般原理であるとのことだ。

 さすがに見識の高いクルーグマン教授である。言われてみるとなるほどと思ってしまう。特に現状の日本のように景気が低迷すると、活力のある企業が羨ましく思え、その経営者に「日本全体の経済にも同じように活力を与えてよ」と切望してしまう。しかし、それは愚の骨頂。野村監督にJリーグの監督をお願いするようなものなのだろう。

 ちなみに、ある分野で有名な研究者が、よく知りもしない別の専門分野で声高に意見を述べるようになることを「グレート・マン症候群」と言うらしい。日本は、この「グレート・マン症候群」に陥る人が多い。マスコミが、この症状をあおっているのだ。某Aテレビが元巨人の落合に消費税引き上げについて意見を求めた時にはさすがにびっくりした。この症状に陥らないように、謙虚に生きていくことが重要なのだろう。特に、自分の発言が世の中に影響力を持つような人は尚更。。。。



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