続 地方債繰上償還条項

 先日、地方債の繰上償還条項について書きましたが、誤解があるといけないので、過去の経緯をふまえ、マーケットがどのように見ているか、そして私の考えを合わせて書こうと思います。

 エッセイを書いた後に、某銀行系証券会社の債券ディーラーの方からメールをいただきました。そのメールの中で、地方債の繰上償還条項が当初どのような経緯で付け加えられたのかに関して次のようにコメントしていただきました。

当時は,地方公共団体が銀行借入れの類似に,銀行(通常指定金融機関)が持ち切り前提で発行していたもので,そのために借入れの繰上げ返済と同じ感覚で挿入されたようです。

 ところが、指定銀行が持ちきり前提に引き受けた地方債も機関投資家に転売されるようになり、また地方公共団体も、公募で地方債を発行するようになり、市中に出回るようになったのに、繰上償還条項がそのままになってしまったんですね。

 実際、自治省では、繰上償還条項について、公募地方債に関しては、実際にあり得ないし、やりたいと行っている自治体もないと言っています。これに関しては、このHPを読めばよく分かります。また、国会でも共産党の質問に対して、当時の三塚蔵相が「繰上償還は資金運用部にその付けを回すことであり、とうてい認められない。」と答えています。地方債の多くは資金運用部が購入していますから、繰上償還をして一番困るのは資金運用部、いわゆる"国"と言うことになるんですね。

 その上、実際に公募で発行されている地方債で繰上償還されている債券は、繰上償還条項の他に、別項で抽選繰上償還条項等の特別な繰上償還条項等が付いているのです。そしてそう言う債券は、市場価格も繰上償還があることを前提に、合理的な価格形成がなされています。また、そうでない債券で繰上償還されている地方債は現在のところ、指定銀行が保有し転売されていない一部の非公募地方債に限られているようです。こういった点から、市場では、公募地方債の繰上償還はないだろうと判断しているようなのです。

 しかしあくまでも、「過去は繰上償還条項が付いていても繰上償還はしなかった。」「国は、繰上償還をさせないと言っている。」と言うだけにすぎません。法律上は、地方自治体が繰上償還をしても何ら問題はないのです。

 更に、昭和61年に自治省から自治体の財政課に対して、市場の混乱を避けるために繰上償還条項を削除するよう通達が出ているんです。それにも関わらず、その後も地方債は繰上償還条項付きで発行されています。少なくても、61年以降発行された地方債に関しては、繰上償還条項をする意図があると考えても何ら不思議はありません。

 繰上償還を行うには財源が必要です。現在のその財源としては減債基金と地方債の借換発行があります。公募地方債を償還させるほどの額の減債基金を積み立てている自治体はまずないですし、借換のための地方債の発行は自治省が許さないでしょう。地方債の発行は許可制度になっていますから。自治省が許可しない限り発行できません。つまり、現状では、地方債の繰上償還をするための財源はないだろうと思われ、そういった観点から地方債の繰上償還は、なさそうだと言うこともできます。しかしこれも、2005年までです。地方債の許可制度は2005年で終了しその後は事前協議制に移行しますから、その時には自治省が許さなくても地方債を発行することが出来ます。そうすると、少なくても2005年に向けて、繰上償還条項の付いている地方債に関しては、繰上償還条項を前提とした価格形成にしていく必要があると思うのですが、如何でしょうか?



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