投信雑感 その2 投資信託の時価評価 つづき2

 まず100億円の債券型ファンドのポートフォリオを考えてみましょう。その100億円を10億円づつ10個のグループに分けます。そして一つのグループは残存期間1年の債券を購入します。もう一つのグループは残存期間2年。もう一つは残存期間3年・・・・。というように、残存期間の違う9種類の債券を購入します。のこり10億円は資金の流出入に対応するために短期金融商品(コール、CD、CP)等を購入することにします。

 1年経つと、10億円の債券が償還になります。その分は残存期間5年の債券を、そのときの金利で購入することにするとしましょう。また1年経つと、当初購入した残存期間2年の債券が償還になります。これもそのときの金利で残存期間5年の債券を購入するとしましょう。そうやって、償還になった債券は残存期間5年の債券に切り替えていくとします。それぞの債券は、購入時の利回りで最後まで運用することが出来ます。市場金利は気にせずに、購入したときの金利で1年ずつ利回りを考えるとどうなるでしょう。以下の図のようになりますね。

 この図で、長期金利と短期金利を示していますが、実際はこんなに単純ではないです。短期金利の方が長期金利を上回ることだってあります。しかし、シミュレーションでは可能性をすべて考慮したら、なにもできなくなってしまうので、短期金利は長期金利の3分の1と決めてしまっていました。ポートフォリオと書いてあるのが、シミュレーションしたファンドの利回りです。基準価額ではなく、あくまでもファンドの1年間の利回りなのでお間違えのないように。

 このシミュレーションから言えることは、

金利低下局面では、ポートフォリオの利回りが長期金利を上回るが、金利上昇局面ではポートフォリオの利回りは長期金利を下回ってしまう。しかしながら、いずれの局面も短期金利の利回りは上回っている。

ということです。金利低下局面でポートフォリオの利回りが長期金利を上回っているのは、金利低下で債券価格が上昇したからではありません。金利の高いときに買った債券をまだ保有しているので、その分の利回りが寄与して、長期金利よりも高い利回りを提示しているのです。しかしながら逆に金利上昇期には、金利の低いときに買った債権の利回りが寄与してしまうので、長期金利を下回ってしまうのです。しかし、一般的には短期金利より長期金利の方が高いことが多いため、長期の債券を保有しているこのファンドは、短期金利よりも高い利回りを出し続けることが出来るのです。

 さて、このようなポートフォリオを考えたとき、どのような顧客がこのポートフォリオを購入するでしょうか。短期金利よりも高い利回りが欲しい(分かりやすく書けば、普通預金よりもよい利回りで運用したい)。でも、それほど長期間、使わないわけでもない。または、使わないと思うけど、もしかしたら使うかもしれないお金。こういった資産であれば、是非こういうファンドで運用したいですよね。そしてそれほど、多額の資金でない場合。まとまった資金を長期間寝かせておけるのであれば、債券を直接購入した方が良い。しかし、債券を購入するには100万円以上の資金が必要(中には10万円単位というのもありますし、割引債などは100万円以下で購入できますね。)。しかし十数万円とか、数十万円程度の資金では、ファンドで運用した方が良さそうですものね。

 では、シミュレーションしたポートフォリオを時価評価するとどうなるでしょうか。次のグラフを見てください。

 この図で、ポートフォリオAは、さきほどシミュレーションしたポートフォリオです。そしてポートフォリオBは同じポートフォリオを時価評価した場合の利回りです。基準価額ではないですよ。そしてポートフォリオCは残存期間5年の債券を、そのときの利回りで購入して1年経ったら売却、また新しく残存期間5年の債券に乗り換えた場合の利回りの推移です。

 ポートフォリオAに比べ、Bは利回りの変動が激しいですね。そしてポートフォリオCはもっと激しく利回りが変動しています。前提条件を変えるだけで利回りの水準は変わってしまうので、水準はあまり気にしないでください。ここで理解して欲しいのは、AよりもB、BよりもCの方が利回りの変動が激しいということです。ちなみに金利低下局面ではもっと利回りが上昇しそうですが、それぞれ1年後ということで債券価格を計算しましたので、残存期間が短くなることで債券価格の上昇が抑えられています。また金利上昇局面では逆に債券価格の値下がりが抑えられ、更にクーポン収入もあるため、このような結果になりました。

 しかし、これだけ激しく利回りが変動するのでしたら、いつ使うか分からない資金であれば、ちょっと購入をためらってしまいますね。ポートフォリオBやCの購入を検討する顧客はどういう顧客かというと、元本割れをあまり気にしないリスクのとれる顧客ということになるでしょう。逆に長期金利以上の利回りを得たい。うまくいくと10%位で回るような運用をしたい。そう考える顧客ではないでしょうか。

 つまり、顧客の資産の状況やリスク許容度によって、ファンドへのニーズは変わってくるわけです。それを、ポートフォリオAを望むような顧客に対して、債券はすべて時価評価しますから自己責任でファンドを購入しないさいと、要求するのは酷ではないかと思うのです。それよりも、顧客属性にあわせて、時価評価するファンド、時価評価しないファンドと分けた方が顧客のニーズに合致するのではないかと思うのです。

 さらに、ファンド側から見ても、償還まで保有する債券を、時価評価することで、逆に顧客が資金の流出入を激しくさせるとなると、これは運用しにくい。償還まで債券を保有するのなら、購入当時の利回りで基準価額を計算しても良いのではないかと思うのです。生命保険会社の場合、Held To Maturityという概念があります。償還まで保有すると決めて購入した債券に関しては、時価評価せずに決算を行うということです。

 投資信託に関しても、このHeld To Maturityという概念を導入しても良いと思うのです。ただし、Held to Maturityに指定した債券に関しては、絶対に売ってはいけないというルールを徹底させればよいのです。そうすると、資金の流出入が激しいファンドに関しては、Held to Maturityとして債券を購入することは難しくなるでしょう。一つのファンドに指定できるHeld to Maturityの比率を業界ルールで決めてしまっても良い。ただし、資産の中でどの程度Held to Maturityに指定した債券が組み入れられているかはきちんとディスクローズしなければなりません。

 そして、もしHeld to Maturityに指定した債券を売却しなければ解約に対応できないというときには、運用会社が責任を持って、ファンドを購入して資産残高を維持する、または、ファンドで借り入れを行い、その借入金利は運用会社が負担すればよいのです。

 ただし、そうなると運用会社の信用度がファンドの利回りの大きく影響してくるとなるでしょう。運用会社の信用度に応じてファンドの購入を決断することになるかもしれません。こういった動きに対しては、運用会社のディスクローズを徹底させることで解決するでしょう。

 今まで、非上場債券を時価評価しないことで、リスク許容度の低い投資家を投資信託に取り込んできました。リスク許容度の低い顧客に、事故責任を要求してもタンス預金に化けるだけです。それよりも、時価評価しない場合のリスク、及び問題点をきちんと把握して、それを解決した上で、リスク許容度の低い顧客のニーズも満たしていくという努力が必要なのではないでしょうか。



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