投信雑感 その2 投資信託の時価評価 つづき

 今日は昨日の続き。果たして本当に、すべての債券を時価評価する必要があるのかということです。

 その前に債券の時価評価をするとどういうことが起きるか考えてみましょう。

 メリットとしては、運用者が解約にびくびくする必要が少なくなるという点があげられるでしょう。これは少し解説が必要です。例えば純資産が1,000億円のファンドがあったとしましょう。そして金利の上昇で1億円の含み損が生じてしまったとしましょう。含み損の純資産に対する比率は0.1%ですから10,000円のファンドでしたら10円の損です。この程度でしたら、解約に伴うコストや違うファンドに乗り換えたときのコストを考えたら、含み損を許容して解約せずにそのままにしておいた方が得ですよね。ところが、何かのきっかけで大量に解約が出たとしましょう。含み損が膨大にあるらしいとの噂が出回ったとか、販売会社が経営破綻に陥ったとか。0.1%の含み損というと、たいしたことがないのに、1億円の含み損と聞くと、それは大きい、解約しようと思う人がたくさんいても不思議ではありません。そして500億円が解約されたとすると、純資産は500億円、含み損は1億円のままですから、含み損率は0.2%、基準価額にして20円になります。解約が900億円出てしまうと、純資産100億円、含み損1億円のままで含み損率1%、基準価額にして100円になってしまうのです。こうなるとちょっとびびってしまいますよね。

 確かにこう考えると、すべての債券を時価評価した方が良いように思えます。しかし逆にデメリットもでてきます。まず、地方債、政保債、利金債の買手が減ります。時価評価されるのなら、価額が下がるときには売却を考える必要がありますから、流動性の少ない銘柄を買うメリットは少ない。国債との利回り差がとっても大きいのなら別ですが、そうでなければ流動性があると思われる数銘柄以外には、買うメリットないでしょう。多分安定性を求められるファンドで、今まで時価評価されないことを理由にこういった債券を買っていたファンドは、債券の購入を見送ることになるでしょう。国債の大量発行、資金運用部の債券購入枠も減っている中で、こういったことが起きると、リファイナンスの出来なくなる地方公共団体が出て来る可能性だってあります。

 次に、当然今まで債券を購入して高い利回りを提示してきたファンドの中には、そういった利回りを維持できなくなるでしょうから、そういったファンドからは資金が流出していくでしょう。そうでなくても金利上昇期にクーポンを得てもその分価格の下落で帳消しになってしまいますから、基準価額は低迷することになり、一気に債券型ファンドから資金が流出することだって考えられます。

 更に、ある程度利回りを狙って、長期の債券を購入していたファンドにしても、すべての債券が時価評価されるわけですから、基準価額の変動性は高まります。リスクの許容度の低い顧客は、やはりこのファンドを売却することになるでしょう。

 そして、一物多価という性格は変わっていないのですから、同じ銘柄を保有していても、運用会社によって基準価額は変わってくる可能性が大きい。今までは、そういった銘柄は簿価で評価されてきたわけですから、どの運用会社でも同様にこの評価方法です。しかし、時価評価するとなると話は別。全く同じポートフォリオだとしても、運用会社によって基準価額は違ってくることになります。実際、現在非上場債権を評価する方法として提案されているのは4通り。証券会社が提示する値段を使うとか、情報ベンダーが表示する価格を使う等々。これでは、逆に基準価額に対する不信が高まってしまうのではないでしょうか。中には、実際に売買しないときには運用会社に有利な値段を提示することを条件に、運用会社との取引を増やそうと考える取次業者が出てくるかも知れません。「評価に使うだけのときは、0.1%低い利回りで提示しますので、うちから債券を買ってください。」というように。

 そして、今まで運用されてきたファンドにとっては、時価評価をすることで、投資家の間で不公平が生じることも問題です。今までも、不公平だったではないかとの反論もあるかも知れませんが、そんなことはありません。短期間しかファンドを保有しなかった顧客にとっては確かに、本当はもっと利益が出ていたのにとか、本当はもっと損失が大きかったのにということが起こり得ます。しかし長い目で見れば、金利が上がったり下がったりする中で、そのような不公平は解消されます。しかし、今まで簿価で評価していたのに、突然時価で評価するとなると、このときに生じた不公平は、一生解消されないですよね。たまたま、保有していたファンドが含み益を大量に抱えていれば大きな利益を手にすることが出来ますし、逆に含み損を抱えていれば、大きな損失を被ることになります。また運用者側でも、含み損を抱えている場合には、その含み損を広げることのないように、含み損があることを知られないように努力するでしょう。保有債券が分かれば何らかの想像をされますので、ディスクロージャーが逆に後退することだってありえます。

 こう考えると果たして、時価評価をすることが顧客にとって良いことなのか悪いことなのか分からなくなりますね。すべての改革は、消費者(投資信託の場合に性格には受益者と呼びますが)にとって、メリットのあるものでなければなりません。消費者にとってデメリットしかないのであれば、その改革は導入する意味がないでしょう。

 債券は償還まで保有していれば、購入時の利回りを最後まで得ることが出来ます。ディフォルトさえなければという前提付きですが。このメリットを最大限に生かしてファンドを設計することが、顧客にとって大きなメリットになるのではないでしょうか。明日のエッセイでは、そのような視点から、非上場債券の評価方法について、私なりの考え方をまとめてみようと思います。 



back to my homepage


WebMaster:Kimihiko Uchida b obubeck@can.bekkoame.or.jp
or otherwise qzg00456@niftyserve.co.jp
©copyright 1999 Kimihiko Uchida