メインバンク神話の崩壊

 先週の土日は、匿名口座(上・下)を読破。今週の土日は、「日本経済常識のウソ」「メインバンク神話の崩壊」の2冊を読了。せっかくの土日を読書で潰してしまうのは惜しい気もするのですが、何せ、weekdayはなかなかまとまって読書をする時間がないのでしょうがない。通勤電車の中で、毎日少しずつ読むと言うことが私には出来ないんです。

 匿名口座(上・下)はなかなか面白いビジネス小説でした。USBというプライベートバンクの中で繰り広げられるビジネスの実態を、麻薬組織のマネーロンダリングという架空の取引を引き合いに、赤裸々に著していると思います。話は長いのですが、一気に読み終えることが出来ます。USBと書いているけれども、これを見れば誰でも、UBSの事かな?と勘ぐってしまいますよね。実際著者は、もとUBSにいた方だそうです。

 「日本経済常識のウソ」は、そのタイトル通り、日本で一般的に常識と思われていることを、取材を通して反証しています。確かに、常識の間違いに関しては、著者の指摘するとおりなんだけど、そこから出てくる結論に、つっこみの甘さを感じましたね。私は。

 論理構成が、「現在の日本の常識では、アメリカの考え方はこうだ」→「しかし、本当はアメリカでは日本で言われているほどではない」→「だから、今進んでいる方向性は間違い」といった、三段論法なのです。例えば、「アメリカでは、大手銀行でさえ市場の論理で倒産する」→「しかし、本当はアメリカだって大手銀行は、政府が関与してつぶれないようにしている。倒産しているのは本当に小さい銀行だけ」→「だから、日本でも大手銀行をつぶしてはいけない」といった論理なのですよ。

 アメリカ信奉を否定しておきながら、実は一番アメリカの論理に依存して結論になっている。現状認識に関して常識を再度確認することは必要だと思うけれども、大切なのは、結論。そしてその結論は合理的な判断の中から生まれるべきであって、他国がどうしているからと言った理論で結論を出しても後で後悔するだけだと思うんですけれどもね。「大手銀行を潰してはいけない」と言う結論が間違っている採っているわけではないですよ。念のため。

 そして「メインバンク神話の崩壊」。これがなかなか面白かった。結論を出すための方法論の解説が長くて、ちょっと飽きそうになるのですが、メインバンクの仕組みを、定性的に良く分析できていると思います。外国人の著書なのですが、日本の数多くの銀行マンに6年間に渡って取材を行い、その中でメインバンクと言う仕組みを解明した、なかなかの力作だと思います。

 メインバンクは、一般的に言われているような、企業の救済(「最後の砦」)といった役割を担っている訳ではないし、企業のモニター役としての役割も果たしていない。いわんや、企業統治と言った役割は皆無に等しく、企業にとってメインバンクは「ヨソモノ」であるとの結論は、我々が企業に投資していく際にも十分、役に立つ考えだ。

 あくまでもメインバンクは、総合的な収支を判断して、企業に融資している。そしてメインバンクとそれ以外では総合的な収支が全く違うので、銀行はメインバンクの座を求めていくのだとのこと。メインバンクになると融資以外に、社債の引き受けや為替業務、そして社員の銀行口座を任されるなどの副次的なビジネスが生じ、これがあるからこそ、メインバンクは美味しいビジネスになっているのだそうだ。そして、これらが得られず、更に、企業の業績も回復がままならないと判断した際には、回収に走るだけとのこと。つまり、メインバンクがいるからつぶれない、とかメインバンクがここだからつぶれないと言った考え方は幻想でしかないと言うことが、銀行内部の論理からも明らかになっているのである。

 いまだに、too big to failを信じている人や、メインバンクの救済システムを信じている人は是非読むべき本だろう。私個人は、とっくにそんなシステムは崩れ去っていると考えていたが、この本を読んで更にその考え方が、正しいことを再認識したのである。



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