ディスカウント業界

 昨日の続き。『株主価値創造革命』からの話である。

 この本の中に、些細なところで私の今までの疑問を解いてくれた部分がある。私は今まで、日本における「安売り」が、何故、規模拡大を続けられないか、何故いつの間にか安くなくなるのかを疑問に思っていた。この理由として私が考えていたのは
(1)規模が大きくなるにつれ、安いコストで商品を調達することが出来なくなる。→規模が小さいうちは、倒産した企業から安く買い上げたり、ゲリラ的な商品調達も可能だが、規模が大きくなるとメーカーとの正規の取引に依存しないと商品調達が難しい。
(2)他社も安売りに参入することで、差別化が難しくなる。→安売りには限度がある。他社も同様な戦略に出たとすると、どこかで、値段は一緒になるはずであり、他社との競争条件は、安売り以外の要素に依存せざるを得なくなる。

 (1)に関しては、「規模のメリット」と相反する。販売規模が大きくなることで、商品供給会社との交渉が有利になり、更に安い値段で仕入れられるようになると言うのが、規模を追求している会社の言い分である。(2)に関しては、何故安売りに、多くの会社が参入するのかという疑問に答えていない。何故、安売りが規模拡大を続けられないのかという疑問は、言い換えると、何故多くの会社が同じ戦略を採るのか、何故米国のように、「他社は他社、当社は当社のやり方で成長を目指す」とならないのだろうかという疑問である。

 これらの疑問に関して、この本は、日本が株主を無視し続けてきたことを、その要因として上げている。資本コストを無視できるから、各社とも規模を追求した安売りをすることが出来る。その結果として、成長産業が競争激化市場となってしまうと言うことなのだ。もし、各社が資本コストをきちんと認識していれば、無謀な安売り競争には参入できない。資本コストは、会社によって多種多様であり、その資本コストによって、「安売り」に参入できる企業と出来ない企業があるはずなのである。

 この本では、次のように述べている。『「良いものを安く」はせいぜいサバイバルのための必要条件に過ぎず、市場型資本主義の本質は企業の経営者に株主資本のあくなき増殖を追求させるところにあるのだ。というのは、ただ「良いものを安く」という競争ルールだけでは、泥沼の競争に陥りかねないからである。』

 この文章は、日本の製造業の安いものを大量に製造して輸出するという事業構造に焦点を当てた文書である。しかし、私が疑問に思っていた、ディスカウント業界の現状に関しても、その本質を言い当てているのではないだろうか。

 資本コストを認識し、株主価値の増大が、各経営者にとって最大の目標となれば、どの企業もディスカウント業界に参入することはなくなるだろうし、そうなればディスカウントで生き残れる会社も、その利益率は高まるだろう。株主価値の増大は、産業構造の転換をも示唆するのである。



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