昨日の『市場は万能?』というエッセイに対して、早速、市場関係者からメールを頂きました。エッセイを書きながら、市場関係者は反論するだろうなぁと考えていましたので、当然、反論のメールは予想通り。ただ、マスコミが騒ぐような市場万能論をふりかざした規制反対論ではなく、非常に合理的な論旨が展開されているので、是非ご紹介したいと思います。
突然お便り申し上げます.某証券会社で主にCBの自己トレードを
行っている者です.Bobubeckさんの「空売り規制」に関するお話に関して
若干思うところがありますので......
次のような反論が当然提起されると思われますが,これに関してはどのように
お考えでしょうか.
・「安値で空売りをする」ことを規制するなら,信用,あるいは短期
売買の目的で高値まで買いあおる行為も当然規制されるべき.
一般に借株の総量には制限がある(個々の銘柄について言えばどんなに
品借料を積んでも株式貸借市場に出てこない玉がある)が,カネの
供給量はそれに比べればはるかに潤沢(お金に色はない)であるため,
限界的な調達レートの高騰を考えても買い方は売り方より大幅に自由な
マーケット操作,スクイーズ行為を行える(多くの仕手株相場は
こうして形成されてきた).その意味では日本はマニュピレーションが
横行している(いた?)のだが,そちらは野放しか?
・アウトライトの空売りは当然のことながら,相当のリスクを伴う
行為である.それを行って(事後的に)利益が得られた(ように見える,
あるいは得られたと噂をされている)からといって,それがリスク・
リターン比という観点からみてどうであったかにかかわらず非難を
するのはおかしいのではないか.
・もし本当に,負担したリスクに対して異常なリターンが得られていたと
したら,それは空売り行為がいけないというよりも,その直前の価格を
疑うべきである.売り手は人為的に価格が維持されていた状態を「王様は
裸だ!」と看破しただけなのかもしれない.
> 市場の全てを放任するのではなく、市場操作を許さないマーケットを
>作って初めて、市場万能主義の元で経済を語ることが出来るのではないだろうか。
bobubeckさんこの部分のご発言にはもろ手を挙げて賛成です.たとえば
資金繰り困難などの噂を意図的に流して相場を崩そうなどという行為は
外道の所業で絶対に許すべきではありません.しかし,空売りが直近の
安値を下回ったか,どうかという行為の外形だけでもって変な制限を
加えることは,政府の上げ賛成バイアスとでもいうべき不愉快さを
感じるのもまた事実です.
また,現在噂されているところでは,証券会社は今後「売り注文に関して
売り手が株券を所持しているかどうか」を確認してから発注を行うという
義務が課されるのではないかと言います.これなどは実務も知らん奴が
何を言っているんだ,という気持ちがしますね.海外の投資家からの
売り注文があったら,カストディの金庫にでも忍び込んで株券を数えてから
注文を出せ,とでもいうのでしょうか.それでもオフショアで株式貸借が
行われてしまっては,ある株券が売買に伴ってA投資家のアカウントに
入ったのか,貸借でなのか,は誰にもわからないのです.
こんなことをしていると,大証の日経先物がSIMEXに流れてしまった
あの愚行を株式貸借で,あるいはInstinetなどのオフショア市場で再現,
ということになりかねないと心配なのですが,MOFの人(今回の規制の
作成は業界人を交えずに大蔵省金融企画局単独だそうです)にとっては
マーケットが死んでしまったとしても付き値が維持されればそれで
こと足れリなんでしょうね.
突然の長文+乱文失礼しました.今後とも面白い評論をお待ち申し上げて
おります.
非常にもっともな反論だと思います。また、昨日のエッセイでは言葉足らずだった面もあるようです。そこでそのあたりを補正したいとおもいます。
♪ ・「安値で空売りをする」ことを規制するなら,信用,あるいは短期
♪ 売買の目的で高値まで買いあおる行為も当然規制されるべき.
この件に関して、この方の仰るとおりだと思いますし、そうあるべきだと考えています。エッセイ中では、無用の混乱を避けるため空売りのみを対象に文章を書きましたが、売りに対してそのような規制をかけるのなら、買いに対しても同様の規制をかけるべきだと思っています。規制主体は、株価が上がるのを望むべきではなく、市場を操作する行為を規制するべきであるため、「買いの市場操作は良いけど売りの市場操作は駄目」という筋合いはないでしょう。そう言う意味からすると、公的資金の株式市場介入だって、規制されるべき行為だと思います。
♪ マーケット操作,スクイーズ行為を行える(多くの仕手株相場は
♪ こうして形成されてきた).その意味では日本はマニュピレーションが
♪ 横行している(いた?)のだが,そちらは野放しか?
これも、この方の仰るとおりです。債券市場でおきたスクイーズなどのような行為にも、きちんと目を光らせるべきでしょう。そう言った意味で、日本はマニュピレーション天国なのだと思います。インサイダーや風説の流布と言った行為に関しても法律上は規制されていても実体的は、やりたい放題ですからね。
♪ ・アウトライトの空売りは当然のことながら,相当のリスクを伴う
♪ 行為である.それを行って(事後的に)利益が得られた(ように見える,
♪ あるいは得られたと噂をされている)からといって,それがリスク・
♪ リターン比という観点からみてどうであったかにかかわらず非難を
♪ するのはおかしいのではないか.
♪
♪ ・もし本当に,負担したリスクに対して異常なリターンが得られていたと
♪ したら,それは空売り行為がいけないというよりも,その直前の価格を
♪ 疑うべきである.売り手は人為的に価格が維持されていた状態を「王様は
♪ 裸だ!」と看破しただけなのかもしれない.
空売りのリスクを計量化することは出来ないわけで、そう言った意味でこの反論に理論的に答えることは出来ないと思います。空売りのリスクが高いという考え方も私としては、その通りと言える確証はありません。また、リスクに見合ったリターンが得られたのだから何も問題はないではないかという考え方も、果たして、そうなのか疑問を持ってしまいます。
♪また,現在噂されているところでは,証券会社は今後「売り注文に関して
♪売り手が株券を所持しているかどうか」を確認してから発注を行うという
♪義務が課されるのではないかと言います.これなどは実務も知らん奴が
空売り規制をする際の実務上の問題はここにあるのでしょうね。空売りかどうかをどうやって調べるのか?株を貸し株市場から調達してきて売却する際には、空売りかどうかは、性善説に基づく自己申告制しかないのではないかと言うことにもなります。
ただ、極端な話をすれば、株券を目の前に用意しないと空売りと認定すると言ったことでも良いのではないでしょうか。株券を調達して売る場合には、発行済み株式数以上の株券を調達することは、詐欺でもない限り不可能なわけですから、空売り規制の対象外としてしまっても、それなりの効果は出ると思います。
昔こんな事があったそうです。今や自主廃業してしまったY証券会社が旭化成を推奨して猛烈に買い上がっていたときのこと。超大手N証券がこれに売り向かったのだそうです。旭化成の業績向上を信じていたY証券は、かまわず買い増しをしていったところ、なんと、旭化成の発行済み株式数以上の株式数を買い集めることが出来たそうです。つまりN証券は空売りをやっていたわけですね。当然、将来的にN証券は旭化成の株式を買い戻して、貸方に返さなければなりません。だけど、Y証券は旭化成株を一株も売らない。どうなるかはみなさんご想像が付くでしょう。最終的には手打ちをしたそうですけれどもね。
何故、ここでこのような話を持ち出したかというと、一つはスクイーズの話。もう一つは、貸し株を調達してくると言うことは、発行済み株式数以上は売ることが出来ない。つまり力づくの売り崩しをするには難しいと言うことです。
、 ただ、こういった実務上の問題を考えると、インサイダー取引や風説の流布と言ったことに対する規制を強化する方が先だとは思いますけどね。
♪こんなことをしていると,大証の日経先物がSIMEXに流れてしまった
♪あの愚行を株式貸借で,あるいはInstinetなどのオフショア市場で再現,
ある程度、市場外取引が膨らむのはしょうがないことではないでしょうか。ただ、情報開示や、インサイダー取引規制などの市場操作に対する規制がきちんと機能すれば、さほど問題はないように思えます。downtick ruleは市場外取引に規制をかけられないではないかと言われれば返す言葉がないですが、いくら市場外取引が進んでも、価格決定機能のベースは、ベースとなる市場の取引になると思っています。面白い統計があるのですが、いくら国際企業といえどもその株価は世界経済ではなく、その国の市場環境に強く影響されるとのレポートを読んだことがあります。ソニーとかトヨタ、本田の株価の動きは、このレポートの検証とは逆の結果になったわけですが、常に例外は存在するもの。市場外取引の拡大によって、その市場の価格決定機能の衰退を心配する必要はないと思います。ただし、その取引所の国際化は必要でしょう。税制等の面で。
逆に日本の現状を考えた場合に、市場外取引が認められる前から、ロンドンや米国ADR、SIMEXなどの価格を参考に売買してきたわけで、これはローカル参加者の外国信奉のたまものだと思っています。