プロダクトアウトとマーケットイン

 近頃元気な企業の中には、『プロダクトアウツからマーケットインへ』を標榜している企業が多い。例えば菱食。この会社、食品の卸売をしている会社だが、加工食品の物流においては国内NO1の企業である。国分と言う食品卸売業の方が売上は多いが、この会社の売上の大きな部分はお酒が占めるからだ。需要過剰の時代から生産過剰の時代に変わるにつれ、卸売業も生産起点型流通から消費起点型流通に変わらなければいけないのに、この動きについていけない企業が多いために、問屋不要論が叫ばれるのであると、この会社の社長は言い切っている。そして、製造業の販売機能を請け負うのではなく、小売業の購買代理機能を請け負っていくことで、シェアを伸ばし収益を上げようとしているのである。具体的にはSDC(Specialized Distribution Center)と呼ばれる特定小売業者向けの物流センターの展開や、ニュートーマスと呼ばれる情報システムの構築などが上げられる。

 またミスミという金型の商社があるが、この会社も購買代理店と称して、メーカーの購買部の機能を請け負うことを合い言葉に、収益を向上させている。この会社はテレビにもよく取り上げられているのでご存じの方も多いだろう。社内の殆どの部門を社外に外注し、正社員はほんの僅か。そして、社内で行われる事業に関しても、その時々でプロジェクトを立ち上げそのプロジェクトで業務が遂行されているなど、日本では一風変わった経営システムを取り入れている。この会社の社長の場合は、マーケットインではなくマーケットアウトと言う表現をしていたが、その意味するところは、やはり、顧客の望むもの、製造業者(この会社の顧客は製造業者、つまり生産財における物流革命を目指しているのである。)が望むものを、サプライヤーに伝え、これを顧客に届けるという機能を前面に押し出していくと言うことだろう。

 翻って、金融業界を考えてみた場合、いまだに、資金供給の担い手という存在価値を元に、公的資金の投入などが論じられている。長銀への公的資金投入の是非を論じるつもりはないし、また反対する気持ちも更々ない。現状での大手行を破綻させた場合の社会的コストが大きすぎるからである。しかしながら、国内での是非の議論を聞いていると、大半が資金供給者としての責任に言及している。そしてまた、銀行自身も、産業界への資金供給を、その社会的使命として認識しているように思われる。それはそれで、間違いではないのだろうが、そろそろ、金融業界にもマーケットインの発想を持ち込んでも良いのではないだろうか。

 銀行にとって、どこがプロダクトでどこがマーケットなのかと言う点に関して、議論が分かれるところかもしれない。お金の流れで見ると、一般消費者から預金という形でお金を集め、それを、資金を必要としている企業に貸し出している。つまり、企業が、マーケットであり、一般預金者ががプロダクトアウト側だろう。そう言った考え方もできるかもしれない。しかしながら、現代においてはやはり、一般預金者こそが、金利というサービスを受け取るマーケットであると考えるべきではないのだろうか。そう考えたときに、銀行の役割は、資金供給することではなく、一般預金者の望むもの(つまり、インカムやリスクとの見合いのリターン)を吸い上げ、それをインカムやキャピタルの提供者へ伝え、望むべきものを調達してくる。これが、銀行の役割になっていくのではないだろうか。

 では、中小企業、それも、直接金融による資金調達の出来ない中小企業はどうすればよいのか。規制緩和が進めば、この分野にだって、ちゃんと収益性を期待して参入する企業が現れますよ。ただし、今よりも高い金利ならばね。つまり、リスクとリターンが見合えば投資する人は現れるんです。中小企業だって、それなりの金利を支払えば、資金を供給してくれる先はどんどん現れます。ただ、その金利を引き下げようと思ったら、相当な努力が必要だとは思いますけど。ただ、その努力は今までのものとは違ってくるでしょう。規模ではなく効率性になるのです。利益率の高い企業であれば、中小企業で成長性が無くても、低い金利で貸すところは現れるだろうし、そうでなければ、やはり、それなりの金利を支払って借りることになるのでしょう。

 ただし、これは今の日本に直ぐに適用することは出来ない。今は、国全体がふさぎ込んでいるときだから、まずは、銀行を助けることの方が重要なのだと思いますけど。



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