株を買う理由

 株を買う理由は様々だろう。大抵の個人投資家は、値上がり益を得たいと考えて株を買うのかもしれない。その他には、株主優待券を目的にしたり、配当金を目的にするのかもしれない。いずれにしろ、株主の権利のうち、利益分配の権利を得ようと株式を買う場合が殆どだろう。

 機関投資家になってくるとこれ以外の要素も出てくる。つまり、株式を買うことで、自分の会社の商品を安定的に買って貰おうとか、資金を安定的に借りられるようにしよう等と言った、株主として経営に関与できる権利を得るために株式を買うことがあるのだ。実際、日本には持ち合いといった仕組みがあり、メーカーと銀行がお互いに株を持ちあっているし、保険会社も保険の契約を取るために株式を持っていた。最近になってこの制度は崩れつつあるが、それでも、発行済み株式の相当な部分が、こういった需要により保有されているのは周知の事実である。

 残余分配権といった権利も株主にはある。会社を清算して、その残りを株主で分配しようという利である。しかしながら、日本の場合は債務超過にならない限り、会社を清算することはないので(非公開会社では、経営者の高齢化や、事業存続の意味が無くなった場合に、債務超過でなくても会社を清算することは多々あるのだろう。)残余分配権のために株式を買うことも少ないはずだ。低PBR銘柄への投資は、最終的にこれを狙っているわけだし、企業買収の場合に米国では、会社の株を買って、その会社の資産を売り払って利益を出すと言った手法も、一時隆盛を極めた。

 いずれにしろ、株式を購入する目的は、何らかの形で利益を得ようと言うのがその考えである。ところが、本日の日経新聞に、大王製紙が大昭和製紙の株式を購入したことに関して、社長のインタビュー記事が載っていた。これを読むと大王製紙の株式購入理由は、今まで上げたような理由とは全く違う。すなわち、情報の収集である。何のための情報収集かというと、大昭和製紙に、大王製紙が競争していくための情報である。つまり、大昭和製紙に勝つため、株式を購入したのである。言い換えると大王製紙の目的を達したときには、株価が下がっているはずなのである。敢えて言うならば、経営に関与するための株式購入に分類されるだろう。しかしいかにも経済合理性からはずれているような気がする。大昭和製紙に競争して勝つためには、それだけの製品を開発販売するか、それ以上の販売能力を身につければよいのである。または、市場調査という方法もあるだろう。株式を購入することで大昭和製紙の情報を手に入れようと言うのはあまりに、安直すぎるし、金をかけすぎではないだろうか。そのために、180億円の資金をつぎ込んでいるのである。一体この会社は株主資本というのをどのように考えているのだろうか?

 基本的に株主に説明できないような経営をしてはいけないのである。自社の利益と投資対象の収益が相反するような経営は、大王製紙の株主の側からすると、何も意味を持たない。無駄な金を使っただけである。そんなにお金が余っているのなら、自社株買いをして、資金を株主に返還した方がまだましなのである。いまだにこのような会社が、上場していること自体、日本の経営者の株主に対する考え方が、進歩していない現れだろう。



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