知的資本のマネジメント

 とても面白い本を読んだので紹介したい。ダイアモンド社から1998年6月に発行された『知的資本のマネジメント』。高橋俊介さんという人材マネジメント分野のコンサルタントをされている方が書いた本である。

 この本の趣旨は、人材のマネジメントがレイバー・リソース・モデルからヒューマン・リソース・モデルに変わり、そして今は、ヒューマン・キャピタル・モデルへの移行が求められていると言うことだ。これだけでは訳が分からないと思うので、簡単にこれらの3つのモデルについて説明しよう。

 レイバー・リソース・モデルというのは、必要なときに雇い、必要が無くなると解雇するという方法である。米国ではブルーカラーに関してはずっとこの方法を使っている。これに対し日本では早い時期にブルーカラーに関しても、この方法を早い時期に捨て、ヒューマン・リソース・モデルに移行した。

 ヒューマン・リソース・モデルとは人材を貴重な経営資源と考え、終身雇用によって社内に抱え込もうとする考え方である。来年は今年より良くなることを保証し長い間、一生懸命働かせることで株主利益の増大を目指す考え方である。日本企業の製造品質が優れているのは、ブルーカラーに対して世界でもいち早くヒューマン・リソース・モデルを適用したからなのだそうだ。ヒューマン・リソース・モデルの採用は日本だけではなく米国も同じであり、ただ単に、社内の序列を日本は人に、米国は役職につけたという違いだけなのである。

 これに対し、ヒューマン・キャピタル・モデルは人材を社内に抱え込むのではなく健全な流動性を確保しようという考え方である。レイバー・リソース・モデルとの大きな違いは人材に対する投資の有無である。レイバー・リソース・モデルでは、人材に対する投資などは眼中にない。労働力として必要な時に求めるだけである。またヒューマン・リソースモデルでは投資した人材が、会社に貢献することを前提にしているので、転職の可能性のある人には投資をしたくない、また、投資をした人は退職をしないことが前提になる。だから某金融機関のように、海外に研修に出した人材から転職していくので、海外研修を止めにしたという笑い話のような事が起きるのである。ヒューマン・キャピタル・モデルでは社員の市場価値を高めるために、社員研修が必要だと考えている。言い換えると、人材を簿価評価から時価評価に切り替え、その時価を引き上げることが、その社員にとってだけではなく、会社にとっても、そして株主にとってもメリットがあると言うことなのだ。つまりその社員のスキルが、その会社にとっては必要なくなっても、他の会社では必要とされるかもしれない。他の会社に必要とされる人材を作ることが、その会社にとってもメリットが大きいと言うことなのである。

 今の日本では、人材の流動化が起きつつあるものの、その中でどのように人材をマネジメントして行くべきなのか、どの会社も手探り状態のようだ。雇用に関する新しい価値観が社会の中に定着することによって、日本の経済も活性化に向かう準備が整うのだろう。そう考えると、今起きている金融機関の問題も、価値観を強制的に変えうる力となるかもしれない。

 是非一読されたい本である。特に経営を目指す方には。



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