良い多角化、悪い多角化 その1

 本日の日経に、キョウデンがパソコン生産に進出との記事が載っていた。キョウデンとはプリント基板の試作品を作っている会社で、店頭公開銘柄である。試作品だけではなく、プリント基板のOEM供給も行うとの会社側発表をうけて、一時期株価は高騰したので、知っている方も多いだろう。その、プリント基板の会社が、パソコンの生産分野に進出するというのだ。新聞記事だけでは詳しいことは分からないので、キョウデンに限って話をするつもりはない。

 今回の例に限らず、どうも、川上分野をやっている会社は川下の会社を買いたがるようだ。つまり電子部品の生産をやっている会社が、その部品を使って、消費者向けの製品を作る会社に資本参加したり、自分で直接消費者向けの商品を作ることに、資本を使いたがる。今回のキョウデンの例に限らず、メルコなども社長の発言などを聞いていると、パソコン生産に進出したいというような意志があるようだ。

 川上分野の会社が、川下の会社を買いたがるというのは電子部品業界に留まらない。食材の会社にしても、加ト吉が京樽や榮太郎に配下においたり、ケイビーが居酒屋チェーンを配下に置いたり、と川上分野の会社が川下の事業に乗り出す例は、数え切れない。しかしながら、そういった多角化で、上手くいっている例は、数少ないのではないだろうか。

 経営者の気持ちは分からないでもない。部品や材料を作っている会社にとっては、いつ、ユーザーが心変わりをするのかと、気が気ではないのだろう。それよりも、ユーザーである、製品を作っている会社を傘下におさめれば、黙っても自分の所の部品や材料を使うようようになる。つまりユーザーを確実に捕まえておくことが出来ると考えるのも無理のないことだろう。しかしながら、そう言った会社を自分の配下に置けば、その会社の経営にも責任を持たなければならなくなるのだ。その上、心変わりのしないユーザーを手に入れることで、経営努力を怠るようになるかもしれない。それよりも、心変わりをするかもしれないユーザーばかりの方が、常に部品や材料の品質や物流管理、そして値段の競争にさらされながら、経営の質を高めていくことが出来るのではないだろうか。

 昨日の日経には、コカコーラの会長であるアイベスター会長のインタビューが載っていた。多角化は意味無しとの副題が付いている。彼の言葉を使うと「トラックの運転手がレストラン事業を始めたとしたら、トラック事業もレストラン事業も失敗するだろう。」とのことだ。余計な多角化は資本の無駄遣いでしかない。本業を十分に成長させることこそ株主に報いる唯一最大の経営者の仕事では無かろうか。

 投資家の観点から多角化を考えると、更にこれが無意味なことが分かる。何故なら、投資家は、分散投資によって、一つの事業に資本を集中投資することのリスクを回避することが可能だからだ。投資先の会社が無用な多角化をすることは、投資対象企業のパフォーマンスがよりマイルドなものになってしまい、期待した収益を得られなくなる結果となる。

 では多角化は、全てにおいて、失敗に通じるものなのだろうか。この疑問に対しては、明日また書くことにする。



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