元木選手

 古い話で恐縮だが、土曜日の巨人ヤクルト戦はまれにみる面白い試合であった。白熱した投手戦。趙と伊藤の投げ合いは9回まで0行進が続いた。そして9回の裏。後藤が四球で歩いた後の元木の打席。松井、清原と凡打に続いたため、誰もが延長戦を覚悟していたと思う。

 元木選手は、入団の際、巨人に入りたいと駄々をこねて、1年間野球浪人。そして高校卒業1年後のドラフトで巨人に指名されて、夢が叶った。しかしながら、入団後は、その野球センスは買われていたものの、川合、仁志選手にセカンド、ショートのポジションを占められ、なかなかレギュラー定着はしなかった。

 今シーズンに入り、野球解説の江川氏のの一押しは元木選手だった。良い選手になったとの評だったが、オフにトレーニングを十分積んだのだろう。それが一気に開花したのが土曜日のヤクルト戦だったのだと思う。伊藤投手の投げるストレートに、いったんは全くタイミングが合ってない素振りを見せて、次のストレートに狙いを定め思いっきりバットを振った。ボールは滞空時間の長い、きれいな軌道を描いてスタンドの向こうに消えていった。打った後にボールの行方を見る、元木選手のさまは、大打者のような貫禄があった。

 巨人に入りたいと願っていた若者が、巨人に入団することで満足せずに練習を続け、劇的なサヨナラホームランを打つまでには、人並みならぬ辛い練習が続いたことだろうと思う。しかし、巨人にはいることで満足せずに、巨人で活躍することを次の目標に頑張ってきたから、成し得たのだろう。もし、ドラフト制度なのだから、交渉権を獲得した球団に絶対入団しなければならないとなったら、元木選手はこのような活躍を出来たかどうか分からない。多分、レギュラー入りはもっと早かったのだろうが、元木選手の頑張りを支える「気持ち」はとっくに、萎えてしまったのではないだろうかと思う。

 『この女(ひと)に賭けろ』という、女性銀行マンを描いた漫画がある。この中で、頭取の座を狙う副頭取のことを、NY支店長が評する場面がある。そのNY支店長は、「本来権力の座とは、あらかじめそうと定められた者か、誰よりも強く望む者だけが座れべきものだ。」と、その副頭取が頭取に就任することを容認する発言をするのだ。このNY支店長は、自分を"あらかじめそうと定められた者"、頭取の座を狙う副頭取を"誰よりも強く望む者"に例えている。そして、自分はまだ、その時期が来ていないのだから、"誰よりも強く望む者"が頭取になればよいと、答えたのだ。

 ちょっと趣旨とは違うが、元木選手も、巨人入りを、そして巨人で活躍することを誰よりも強く望んでいたのだと思う。そしてそれがかなえられたからこそ、土曜日のような活躍が出来たのだと思う。自分には能力がないとか、運がないからとか言って諦めるのではなく、自分の望む仕事を、自分の望む職場を、強く思っていればこそ、それが成し遂げられるのだと思う。我々の仕事にも、これは言えることだ。ファンドマネージャーになりたいと漠然と考えるのではなく、ファンドマネージャーになりたいと強く思うことで、それは、成就すると思う。強く思うからこそ、そのためにはどういった能力が必要かを考え、そのための努力をするのだ。

 日曜日のスポーツ新聞は元木選手の写真が一面を飾るかと思っていたが、さにあらず。一面はワールドカップ一色だった。まだ試合が始まっていないのにも関わらず、岡田監督の写真が一面を飾り、元木選手の記事を一面で見ることは出来なかった。ワールドカップが読者の一番の関心かもしれないが、まだ試合が始まったわけではないのだから、元木選手を一面に乗せて欲しかった。個人的には元木選手のファンということではないのだが、一巨人ファンとして、今日は元木選手について語ってしまった。(^^ゞ


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