アナリスト

 企業の98.3期決算が新聞をにぎわしている。前期の業績はある程度途中経過から判断できる上、株価にも既に織り込まれていることが多いので、現在の投資行動にはあまり反映されない。今後その株を売るか買うかを判断する基準は、今期の業績予想であり、その後の業績の推移をどう見るかである。その前提として、企業が自分の会社の業績が今後どう推移すると見ているのかと言うことは、これからの株価の推移に大いに影響を与える。

 しかしながら、業績発表を受けて、各証券会社のアナリストが発表するコメントを読むと、これがなかなか面白い。要は同じ事を言っているのに結論としてのレーティングはまるっきり違うのだ。

 例えば、昨日信越化学という化学会社が決算を発表した。自動車の内装や水道管に使われる塩ビ、半導体の材料となるシリコンウェハー、等を作っている会社で、最近は光ファイバーの素材となる合成石英やモーターに使われるレアアースマグネットなどがコア事業に育ちつつある。前期決算は連結ベースで売上+11%、経常利益+7.5%と好調だったものの、今期の会社側予想は売上+3.9%、経常利益横這いと慎重なものに留まっている。

 これに対して各アナリストのコメントを見ると、某外資系M証券では、価格低下という不安要因はあるものの、合成石英やレアアースマグネットなどがコアビジネスに成長しており、相対的な安心感は強いとの理由からレーティングは"買い"と結論づけた。これに対し、日系N証券では合成石英やレアアースマグネット等の成長商品を持っていることから中期的な利益成長力は高いものの、今期は利益の下ぶれリスクが残ることから、"中立"と結論づけている。

 同じ会社の業績を、同じように分析していても、「どの程度先を見越してレーティングをつけるのか」とか、「会社の業績を予測する際のリスク要因をどれだけ、レーティングに反映させるか」によって、その結果は変わってくるのである。

 投資家という立場を考えても同じである。5年先を考えて買う投資かもいれば、半年先を見越して売る投資家もいる。そしてこういった様々な見方を取る投資家の見方が反映される形で、市場価格は決まってくるのである。従って、誰が正しいとか、どのアナリストが間違っていると言うことは一概には言えないのである。

 その意味で、我々機関投資家としては、レーティングが当たったかどうかよりも、どのようなロジックで企業を分析し、どのように株価を判断しているかが重要なのである。自分で全ての企業を訪問し、投資判断を付けることが出来れば、それが最も良いのだが、ファンドの性格によってはそれが出来ない。そう言った場合にはアナリストに頼らざるを得なくなるのだから、機関投資家とアナリストをつなぐ役目の証券会社やマスコミ、その他の情報提供機関は、レーティングそのものではなく、アナリストのロジックや企業の分析そのものにもっと焦点を当てるべきだろう。

 ある証券会社の著名アナリストがレーティングを変更すると、他の証券会社のディーラーがこぞってそれに追随する。それが、また株価を変動性の高いものにしているのが現状だ。もっと、アナリストの言い分を聞いて投資行動に移るような環境づくりが必要なのではないだろうか。


back to my homepage


WebMaster:Kimihiko Uchida b obubeck@can.bekkoame.or.jp
or otherwise qzg00456@niftyserve.or.jp
©copyright 1998 Kimihiko Uchida