コンサルタント

 一昨日の"消費"というエッセイで、「しまむら」という会社が寝具売場をレジの近くに置くことで、売上が伸びたという話を書いた。これは、寝具を買う場合に品物を見ただけで購入を決める人は少ないということを現しているのだろう。店員に色々聞いてから、買うかどうかを決断する人が多いと言うことだ。買おうかなと思っても、アドバイスがなかったために、不安になって買うことを諦める人が多かったのかもしれない。

 有明に、でかいショールームを展開している大塚家具は、輸入家具が安く購入できるのも魅力だが、実際に売上を大きく伸ばしている要因は、インテリアアドバイザーと呼ばれる販売員にあるのだろう。家具は消費者にとっては、何度も買うものではないため知識が不足していることが多い。そう言ったときに、部屋の間取りや、他に置いてある家具の種類や外観などを聞いて、それにあった家具をアドバイスしてくれる販売員の存在は非常にありがたいと思う。

 アールビバンという店頭公開している版画の販売会社も、展覧会を見に来た客一人一人に対して、販売員が絵の好みを聞きながら、版画の販売を行っている。私も昔、展覧会に行ったことがあるが、私に話しかけてきた販売員は新人ながらも、版画のことをよく勉強していたし、もう少しで100万円以上もする版画を買ってしまいそうになったほどである。

 米国では投信が、銀行や証券会社、そして直接販売でも購入できる。そして直接販売の全投信売上に占める比率も相当高い。これは401Kプランという年金制度によるものだが、実際に投資家が直接投信を買う場合には、販売手数料がかかったとしても、証券会社や銀行のコンサルタントの意見を聞いて投資するファンドを決断したいとの意識調査の結果も出ている。

 本当に自分でよく勉強している商品は、人に聞かなくても、店頭に行って自分で購入する商品を決定することが出来る。しかし、購入する商品全てに置いて、多様な角度から検討して、決断することなど出来はしない。

 消費者は、アドバイスを求めている。"売らんかな"という態度の販売員は嫌われる。しかし、その商品についての深い知識と、消費者に一番合った商品を選択するセンスのあるアドバイザーがいるのであれば、その人に任せたいと思うのである。

 このエッセイを読んでいる人の中には、パソコンに詳しい人が多いと思う。周りの人から、「どのパソコンを買ったほうが良い?」とアドバイスを求められることが多いのではないだろうか。また「このパソコンを買おうと思うんだけど、どう?」と聞かれるかもしれない。パソコンは価格低下が著しいとはいえ、やはり高い買い物には違いない。頻繁に買う商品ではない。一般には誰かにアドバイスを求めたいと思うのが普通だろう。

 消費の低迷が言われて久しい。消費マインドが冷え込んでいると言われる。しかし、本当にそうなのだろうか。景気の低迷に理屈を付けて、売る努力をしていないのではないだろうか。売る努力と言っても、何も知らない客を騙して売りつけるというのではない。販売している商品の事をきちんと理解し、どういった顧客にはどういった商品を提供すれば喜んで貰えるのかを考える。そう言った努力を、今まで放棄してきたのではないだろうか。

 日本では投信の販売が低迷を極めている。その原因については、色々な人が色々なことを言っている。中には時代錯誤のような、実態を知らない人の批判も多々目に付く。証券会社の販売姿勢に問題があったと言う人もいるし、もっと投資家が勉強すべきだという人もいる。パフォーマンスが低迷していることも大きな理由かもしれない。しかし、一番問題なのは、今まできちんと、販売する人に、商品の事を説明してこなかった事ではないのだろうか。投資家が投信を買うときに一番頼りになるのは、やはり普段接している証券会社の販売の人達である。ところが、その販売員に聞いても、よく分からなかったり、答えが返ってくるのに何日もかかっていては、買う気も失せるだろう。

 これからはコンサルタントの時代である。アドバイザーでもプランナーでも良い。つまりその顧客の好みと希望、そしてそれ以外の諸々の条件から適切な商品を選んで、顧客に勧める。そう言った販売をしていかないと、特に高額品やマネー商品は売れないのではないだろうか。そのためには、販売する商品についての知識を深く理解する必要がある。会社が社員に対して商品の勉強をきちんとさせる。そして、顧客に対して"売りつける"のではなく、アドバイスを行っていく。そう言ったことをきちんと出来る会社が、この低迷する景気の中で伸びていくことの出来る会社になるのだろう。商品のことを販売する社員に理解させることを最初から諦めてしまって、嘘を言ったり、その商品の特性に関わる重要なことを説明しなかったり・・・。そう言ったことで今まで、失敗してきた会社がたくさんあるのである。最初から理解させることを諦めるのではなく、理解するまで勉強させてから、販売させる。そう言った姿勢が、販売する会社のマネージメントには求められるのではないだろうか。商品を売るのではなく、コンサルティングというソフトを売るのである。


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