ディーラーとファンドマネージャー

 為替ディーラーの中では帝王とも呼ばれていた、堀内氏の「市場の神々」と言う本を読んだ。彼の時間軸を追いながらの、マーケットの格闘、苦悩が良く描かれていて、なかなか面白い本であった。ディーラーとしての心構えや、外資系でディーラーをやっていくのに向かない人はどういう人か、なんて話しもあるので、この職業に興味のある人は読んでみると良いだろう。

 私はファンドマネージャーという職業に就いていたが、ディーラーとファンドマネージャーとは、似て異なるものである。一般の人から見ると、この両者は似通ったものととらえてしまうのではないかと思われるし、実際、混同してしまっている人も多く見受ける。しかし、実は、ディーラーとファンドマネージャーは、全く異質の職業であるし、実際水と油のように言われることも多い。

 その理由としては、短期投資と長期投資の違いとか、金の出所の違い、等があげられるようだが、この本を読むと、もっと本質的に違うことが分かる。

 この本では、1月○○円の儲け、2月●●円の損、と言った具合に、毎月いくら儲けたかが記されている。しかし、我々ファンドマネージャーには、○○円儲けたと言う概念はない。例え1億円儲けたとしても、100億円のファンドだったら、1%の収益、投信の基準価額で言うと100円の上昇だが、1000億円のファンドだったら、0.1%、基準価額にして10円の上昇にしかならない。つまり、ファンドマネージャーにとっては、いくら儲けたのかが重要なのではなく、何%儲けたかが重要なのだ。

 昔、為替ディーラーの飲み会に参加させていただいたときにも、同じようなことを感じた。「ディーラーってどれくらい儲けるの?」と聞くと、「多いときで、月1億円かな。」と答えるので「それは、いくら投資して、1億円を稼ぐの?」と聞くと、「分からない。」とのこと。

 1兆円投資して1億円だったら、いくら低金利とはいえ債券を保有していた方がよいわけだし、10億円の投資で1億円だったら、10%の収益だから年利にすると120%、素晴らしい運用収益になるだろう。我々ファンドマネージャーにとっては、投資収益率を高めることが目的であり、いくら儲けたかではないのである。ところがディーラーの人達はその辺が曖昧だなと感じるのである。一応、ポジションという概念はあるようだが、それはあくまでも、一度に投資できる最高額である。(投資という言葉が適切かどうかは疑問だが・・。)与えられたポジション全てを、常に投資しているわけではないし、その日の「締め」までに、明日へ繰り越すポジションを、その額以下に抑えれば良いのである。そこには収益率という概念は存在しない。当然、期間の概念もなくなる。

 ディーラーにしてみれば、「ファンドマネージャーはベンチマークに勝った、負けたと言っている。相場が下がれば、損するのは当然、損が少ないと言って自慢する。しかしディーラーは相場が上がろうが下がろうが、稼がなければならないのだ。」と反論するだろう。

 どちらが凄いとか、どちらが偉いと言ったことを言うつもりはない。私にディーラーという職業は勤まらないと思うし、ディーラーとして優秀な人でも、ファンドマネージャーとして一流になれるかどうかは分からない。ただ、かように両者の考え方、そして仕事のよりどころが違うのだ。そして、そういった考え方(目的?)の違う人達が参加してマーケットが成り立っていると言うことである。これを忘れてマーケットに参加すると、マーケットの動きが理解できなくなり、自滅することにもなりかねないのである。


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