盲腸

 昨日より痛みは和らいだが、それでも、痛みは断続的にやってくる。これでは仕事にならないと思い、午前中は休んで地元の病院に向かった。前回似たような痛みのときには風邪と診断されたので、今回も同じだろうと思い、薬さえ貰えば、後は会社へ行こうと考えていた。それにしても病院というのは、本当に融通の効かないところだ。こっちは痛みが我慢できないから病院に来ているのだ。病院を寄り合い所代わりに考えている人達と一緒に診察の順番を待つと言うのは、どうも納得が行かない。とにかく早く診察して薬を貰いたいのだが、結局1時間以上待たされた。

 内科の医者に、診察して貰う。腹を触られ、痛いところを言えとのこと。しかし、本当に痛いところでは、「痛い」とすら言えず、顔がゆがむ。その顔をみて、医者は痛いと理解したようだ。「うーん、盲腸だと思うけど、尿管結石の可能性もあるなぁ。レントゲン撮ってから、泌尿器科に行ってみて。」とのこと。私としては、とにかくこの痛みを消して貰いたいのだが、そんなことはお構いなしに、レントゲンを撮られ、泌尿器科に回された。泌尿器科でも同じ事を言われ、今度は外科へ。途中で採血、採尿もされた。あっちこっちに回されて、なんかお役所のようである。

 外科の診察で、私の病名は急性虫垂炎と診断された。いわゆる盲腸である。手術が必要とのこと。手術をしないで薬で散らせないか聞いたところ、「出来るかもしれないけど、出来ないかもしれない。出来なかったら結局手術だよ。」と言われ、手術に同意した。

 この痛みが収まるのならば、手術でも何でもやってくれ。そんな気分である。手術の同意書にサインをし、入院の手続きをとる。個室しか開いていないので、1日16,000円だと言う。おいおい、ホテル並みではないか。高すぎるぞとおもったら、減免措置があって10,000円にしてくれるという。随分いいかげんな値段設定である。しかし病室に入ってびっくりした。置いてあるのはテレビだけ。そのテレビもプリペイドカードを購入して見る形式になっている。これでは10,000円でも高すぎる。

 病室で荷物を整理していた所、看護婦が剃刀と石鹸を持ってやってきた。手術をする前に毛を剃れとのこと。剃るのは左足太ももと、下っ腹、そして、あそこの毛である。自分であそこの毛を剃ってると本当にみじめになってくる。剃ってる途中で看護婦が再度やってきた。「出来ましたか?」「もう少しです。」「ちょっと見せてください。」毛の剃り具合を調べられ、「全然だめですね。私がやります。」とのこと。

 看護婦はゴム手袋をつけ、機械的に私のあそこの毛を剃り始めた。私はされるがままである。早くこの痛みを何とかして貰いたいとの思いから、あまり恥ずかしさはなかった。

 剃り終わって少し経つと、素っ裸で担架に乗せられた。肩に二本ほど注射をうたれる。これが結構痛い。その後手術室に運ばれた。手術室と言っても、狭くて、本当にここで手術するのかと言うような部屋である。一応天井には、手術用のライトがついている。

 背中を丸めろと言われ、ぐっと背中を丸めると、脊髄に注射をうたれた。局部麻酔の注射である。これが痛い。さすがにこの私も、「痛い!」と叫んでのけぞってしまった。とたんに足が暖かくなって、思うように動かなくなってきた。医者が、足をつねり(つねっているのか針で刺しているのか分からなかったが)「わかる?」と聞いてくる。痛くはないが、触っているのが分かるので、「分かります。」と何度か答えると、結局局部麻酔はあきらめて、ガスによる全身麻酔になったようだ。良かった。自分の意識がある中で、腹の中をいじられるのは精神的に、耐えられない。口に麻酔を当てられているうちに意識がなくなった。



 「ボブさーん。これが切り取った盲腸だよ。」と見せられた。なんと言えば良いのだろう。ちょっと赤みがかった細い管のようなものである。醤油をつけて食ったら結構うまいかもしれない。そんな事を考えながら、病室まで担架で運ばれ、そのまま眠りに付いた。しかし夜中に痛みで目がさめる。看護婦がやってきて「痛いか?」と聞くので「痛い」と答えると、座薬を尻の穴に突っ込まれた。看護婦さんも大変な職業だなぁと思いつつ、その日は安らかに眠ることが出来た。


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