投資の決断

 大竹愼一というファンドマネージャーの書いた「投資の決断」と言う本を読んだのだが、これほど読み終わった後に、後味の悪い本も久しぶりである。何故、この人はこんなにひどい本を書くようになったのだろう。

 私が初めて読んだ彼の著作は、「ウオール街の常識、兜町の非常識」。これは非常に投資に関する示唆にあふれている本であった。「ROEは高ければ良いというわけではない」「日本株に適切な価値評価値基準はPCF」等、株式分析をする際には主要指標と言われるものではあっても軽視されがちな部分に焦点を当て、個人投資家に分かりやすいように解説した、優れた投資解説本であった。日本人でもNYのファンドマネージャーと互角に戦い、評価されているファンドマネージャーがいると知ったことで、勇気づけられもした。

 しかし最近の彼の著作は、日本悲観論を根拠なく展開し日本人を馬鹿にするだけの、マスコミに迎合しているのだろうかと思わせるようなものが多くなってきていた。そして今回の「投資の決断」は、それに拍車をかけたような内容になっている。

 この本の第二章では「銀行を潰す手口」と題して「私はこうやって拓銀を潰した」と言うような表現を取っている箇所がある。拓銀と取引のある企業に対し「この銀行は危ないから取引を止めなさい」と進言し、6年かけて、拓銀を潰すことが出来たと、彼は書いている。このような発言を軽々しくすべきものではないと思うのである。投資家が企業に対して、発言していくことは大切だと思う。しかし、「ここは危ないから取引を止めた方が良い」といった発言で企業を動かすのは、その辺の素人同士の会話と全く変わらないではないか。これが、コーポレートガバナンスだとは思わない。それ以前に、この発言は、自分が相場を動かしているとでも言いたいような傲慢な気持ちがこめられているように感じる。しかし誰にだって相場を動かすことなど出来ないのである。そのような傲慢な考え方を持ってしまった時は、逆に相場に痛めつけられるのが、この世界の常なのである。

 また個別企業に関する評価に関しても「私は一度も訪問したことはないが、・・。」「良く知らないが・・。」と言った前置きながら、投資すべきではないと結論付けている箇所が多々見られる。投資スタンスにもよるだろうがボトムアップ型で企業取材を綿密に行い、投資価値を計算した上で投資していくタイプのファンドマネージャーが、訪問したことのない企業に関してコメントするというのは無責任としか言いようがないのではないだろうか。

 そうは言っても、全くでたらめばかりを書き連ねているのではない。「難平は絶対止めるべき」と言ったコメントは、私も常々気を付けている点であり、この本を読む方にも、頭に叩き込んで欲しい格言である。

 この本は、もしかしたらゴーストライターが書いたものなのかもしれない。それとも、彼が直接書いたにしろ、マスコミに受けやすい、又は売れやすい本という観点で、書かれたものなのかもしれない。しかしながら、多分それなりの売れ行きを示すことになるのだろう。これを読んだ個人投資家が、ファンドマネージャの考え方について誤解を招かないように祈るばかりである。


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