12月14日

360度のフィードバック

 現在、日本でも年棒制の導入が多くの会社で進められようとしている。しかし、日本で年棒制の運用が可能なのか、私は甚だ疑問である。年棒制の基本は、会社が社員に対して何を望んでいるか、どういった業務をこなして欲しいかが明確になっていなければならない。そして、社員の側もどういった成果が望まれているかを理解し、それを達成するために全力を注ぐ。年棒改正の際には、要求したものが達成されたのかどうかを客観的に判断しなければならない。

 しかし、現在の日本の会社のほとんどは、社員に対する要求が不明確である。明確であると考えている会社でも、その要求を社員が達成したのかどうかを客観的に判断する術を持たない。そんな中で年棒制を導入しても、単なる給料総額(つまり人件費)を少なくするためのものとしか、見られないのである。給料総額が減らなくても、会社に入ってからの年数が長い人から順番に多くの給料を取っていき、会社に入ってからの年数が少ない人間が、割を食うだけのことであろう。評価するのは上司だけ、ま、大抵はその部の部長が、部員の評価をして、年棒の査定を行うと言うことになるのだろうから。

 米国の人事評価システムとして360度のフィードバックというのがあるらしい。私は、米国の実際を知らないので、この評価システム、フィードバックシステムがどの程度、普及しているのかは分からない。しかし、このシステムの考え方にこそ、会社の評価システムのあり方が見えるのではないかと思うのである。

 このシステムは、360度、つまり、上司、同僚、部下、それぞれから、評価され、フィードバックされることで、会社にとってその社員が、どういったことを要求されているか、その成果がどうだったのかを見極めていこうというシステムだ。

 日本にはこのような考え方は全くない。社員の評価をするのは上司と相場が決まっている。しかし、果たして、上司が部員の業務成果を客観的に判断できるのだろうか。業務内容によっても違うだろうが、例えば、アナリストの評価をする場合、その部の部長よりも、このアナリストのサービスを受けている、又は受けたいと思っているファンドマネージャーの方が、ずっと、アナリストの評価をするには適切なのではないだろうか。私が大学時代に塾の講師をアルバイトとしてやっていたが、この会社は、生徒に講師のアンケートを採り、この結果によって、講師の給料の額が変わってくるシステムを採用していた。

 ユーザーからの評価をそのまま評価に取り入れるのも良いだろうし、社内の人間に対するサービスを提供する部署の場合は、社員全員の評価を取り入れていくのも良いだろう。数字で業績を判断することが出来る業務の場合は、それほど問題は生じないが、数字で業績が判断できるような業務はそれほど多くはない。そう言った場合には、どう評価するかが問題になってくるのである。360度の評価システムが全てにおいて万能とは思わないが、部下が上司を評価する機会も取り入れていかないと、日本型のヒエラルキー社会の中では、経営者の考え方が中間管理職のところで止まってしまい、社員全員に浸透しないことになるのではないだろうか。個人的にネットワーク社会の到来とともに、ヒエラルキー的社会構造は崩壊すると考えていたが、日本の会社ではなかなかネットワーク社会は根付かないのである。社員は、パソコンをばりばり使うようになっても、経営陣や、中間管理職の人達は、使わないで済まそうとしている。こんな中では、ネットワーク社会の到来による、フラットな組織が日本の会社に根付くのは、相当時間がかかると考えざるを得ない。そうすると、フラットの社会の中での評価システムを期待する前に、ヒエラルキー社会の中で年棒制が根付いてしまい、年棒制の導入が全く無意味なものになるのではないかと思われるのだ。


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