11月23日

証券会社の破綻と投資信託

 11月22日、山一証券の自主廃業が日経新聞によって報道されました。11月4日には三洋証券が会社更生法を申請いたしました。両社から投信を購入された投資家の方々には、自分の資産がどうなるのか不安でしょうがないのではと思います。また、それ以外の証券会社からファンドを購入した方にとっても、不安を持たれている方は多いと思います。現段階では決定されていない事項もあることから、その不安に全て、確信を持ってお答えすることは出来ないのですが、法律上既に決定されていることを元に、購入した投信の安全性について説明したいと思います。

 まず第一に、新聞報道では、"中国ファンドやMMFは・・・"と言った表現が取られていますが、中国ファンドもMMFも投資信託です。中には普通預金と同じイメージを持っている方もいらっしゃるかと思いますが、全く性格は異なります。次に、投資信託は、証券会社で運用されているわけではありません。系列の投資信託会社やその他の(銀行の系列や外資系金融機関の系列)投資信託会社が運用に当たっております。そして、投資信託を購入した場合に、そのお金は証券会社が管理しているわけではなく、信託銀行に買付後、即座に振り込まれます。その後は信託銀行がこれを管理しており、投資信託会社は、信託銀行に指図することで運用を行っているのです。つまり、現在投資家の皆様方が預けている(法的には預けているという表現は取りません。念の為。)ファンドは全て、信託銀行が管理しているのです。まずはこれをご理解下さい。

 次に難しい表現となりますが、法的にこれらの投資信託をどう扱うべきか記述したものが有りますのでご紹介します。

信託法の第十五条
信託財産の独立性
信託財産ハ受託者ノ相続財産ニ属セス

という条文があります。投資信託は投資信託法によって規制されているのですが、この法律は信託法を上位法としているのです。つまり投資信託は投資信託法と信託法の両方を守らなければならないと言うことになります。そしてその信託法の第十五条の、上に述べた条文によって、ファンドの資産が証券会社や投信会社、そして信託銀行の資産と全く別のものとして、管理されている、つまり、証券会社や委託会社が倒産したとしても、ファンドの資産は、委託会社の負債弁済のために使う事が出来ないことが分かります。従って、投資信託は、販売証券会社が破綻したからといっても、投資家の手元に帰ってこなくなると行った性格のものではなく、あくまでも、計算された基準価額によって解約を行うことが可能なのです。

 次に、今回の新聞報道では、"MMFや中国ファンド等の投資信託について、解約を円滑に行えるよう資金を供給する"と報道されていますがこれについて説明します。上で述べたように投資信託は別管理されているので、何らかの資金を投入する必要はないのです。しかしながら、解約を行った場合、解約日の基準価額で、投資家の資金は現金化され、それを証券会社に振り込みます。そうすると証券会社の側から見ると、投資家にその解約金をお渡しするまでは、証券会社の預り金となるのです。この瞬間に、証券会社が精算されると、債務弁済の対象として預り金を使われる可能性があるので、これらの預り金を日銀の資金で保証しようということなのです。

 以上のことから、証券会社の経営に関わらず、投資信託は安全であると言うことはご理解いただけたと思います。しかしながら、逆に言うと、全ては時価で計算されているため、株式型であれば保有株式の時価で計算されますし、公社債型は債券の時価で評価されます。(一部そうではないファンドもありますけど。) そうすると、証券会社の破綻により株式市場が混乱すれば、当然株式に投資しているファンドはその影響を受けます。またこれにより、投資しているコールやCPがディフォルトになればその影響は免れません。ただ、投資信託の場合、関係会社の資金繰りにファンドの資金が使われる事がないようにとの規制があるのです。つまり、山一投信は山一証券にコール資金を出すことはありませんし、三洋投信が、三洋証券にコール資金を供給することも絶対ありません。また株式についても山一投信がファンドの中に山一証券株を組み入れることは出来ませんし、三洋投信がファンドの中に三洋証券株を組み入れることもできないのです。(インデックスファンドは例外です。これはインデックスに追随させる必要がありますので、必要がある場合には組み入れております。)つまり、運用上に於いても、販売証券会社の経営破綻の影響は非常に軽微なのです。

 ですから、解約を決意されているとしても、株式市場がこれらの問題を懸念して、大きく下落するとしたなら、そんな最中に解約するよりは株式市場が落ち着いた後に解約した方が、良いのではないでしょうか。ただし、投資家の方が、「これらの証券会社の問題によって、株式市場自体がどんどん下落する。または、債券市場も暴落する。だから、早いうちに解約するべきだ。」とお考えでしたら、これは仰るとおり、投資家の判断で解約を検討すべき問題だと思います。個人的には、今回の問題で政府も公的資金の導入を含め、真剣に金融システムの安定が図れるような施策を打ち出すものと思っております。つまり、週明けには大きな市場の混乱もあるかもしれませんが、いずれはこれも安定に向かうものと思います。先日のエッセイでは、「春日大社のお告げでは、11月が大底になるとのこと」とアップしました。これが当たるかどうかは分かりませんけれどもね。


 次に、証券会社の経営破綻によって投信がその被害を被ることはないけれども、運用をしている投信会社の経営事態はどうなのだと言った点に、疑問をもたれる方もいらっしゃるかと思いますので、この点について解説しようと思います。これは明日、明後日と言うよりも、より中期的な問題としての認識となります。

 まず投信会社と系列の販売証券会社の間には、商法上は非常に希薄な関係しか有りません。全ての投資信託会社に於いて、その発行株式数のうち、販売証券会社の持ち分は5%程度です。その証券会社のグループ全てを合計しても30%程度ではないでしょうか。ですから、証券会社の短信や株主への報告書に於いて、投信会社の経営内容などは記載されていないと思います。(子会社や関係会社の記述の欄にと言うことです。) 大抵、投信会社の株式は、その取引相手である、信託銀行やその他の銀行が保有していることが多いのです。ですから、関係する証券会社の経営破綻と時を同じくして投信会社も精算されると言うことはありません。また、一気に投信会社を精算すると、保有有価証券を全て売却しなければなりませんので、市場に与える影響は非常に大きいものとなります。例えば、山一投信の保有資産は、東洋経済臨時増刊号によると約4兆円となっております。これが、一気に売却されるとなると、債券市場、株式市場、ともに大混乱となるでしょう。こう言ったことからも、投信会社が証券会社の精算とともに同時に精算されることはないと言うことがご理解いただけると思います。

 次に投信会社自体の経営内容ですが、これは投信コーナーのところで、解説しています。しかし再度ここで確認しておきましょう。

まず、投資信託法の第17条 委託会社の行為準則に
2 委託会社は次に掲げる行為をしてはならない。
一.自己又はその取締役もしくは主要株主が有する有価証券を信託財産を持って取得し、または信託財産として有する有価証券をこれらの物に対して売却し若しくは貸し付けることを受託会社に指図すること。

 と、あります。分かりやすく説明すると、投信会社が自ら投資した銘柄に関しては、ファンドで投資してはいけないと言うことです。この条文は投信会社がまずは自分である銘柄の株式を購入し、その後ファンドで買い上がって投信会社の利益を増やすことを規制した条文です。しかし、この条文によって、投信会社はほとんど全ての株式を購入出来なくなっています。投信会社が独自に株式を購入した場合に、その銘柄をファンドで購入できないわけですから、ファンド運用の自由度が減少すると言うことになってしまうわけです。つまり、逆に言うと投信会社が独自に買える銘柄は、ファンドで購入できない銘柄に限られるわけですね。

 ファンドで購入できない銘柄としては、信託会社、証券会社の株式などがあります。つまり、投信会社が業務上関係のある会社の株式をファンドで買うことは出来ないわけで、投信会社のファンドを売っている証券会社、投信会社と受託契約を結んでいる信託銀行が、その対象となります。逆に言うと、その投信会社のファンドを売っている証券会社の株式、及び信託銀行の株式のみが、投信会社が保有する可能性のある株式となります。ただ、ファンドそのものの保有に関してはこういった規制がありません。

そして、大蔵省の通達 投資信託委託会社の業務運営について の
第1章 第四
委託会社の財務内容の健全性の観点から、株式の保有限度額は、純財産額の三十%に相当する金額の範囲内とするものとする。

という規制によって、投信会社の保有株式の総額も規定されているわけです。

株式投資への制限だけの説明では、委託会社の経営そのもののリスクを制限することになりませんから、以下の条文も解説したいと思います。

投資信託法 第18条 他業兼営の承認
委託会社は新たに信託財産に関する業務以外の業務を営もうとするときは、大蔵大臣の承認を受けなければならない。
2 大蔵大臣は委託会社が当該信託契約に関する業務以外の業務を兼ねて営むことが公益又は投資者保護のために適当でないと認めるときは、当該委託会社に通知して当該職員をして審問を行わせた後、その承認を拒否しなければならない。

大蔵省 通達 投資信託委託会社の業務運営について
第1章第一
3(1)兼業承認の対象となる業務は、当分の間、有価証券に係わる投資顧問業の規制などに関する法律第二条第二項に規定する投資顧問業及び同条第四項に規定する投資一任契約に係わる業務とする。

つまり、投信会社は、ファンドの運用、及び投資顧問業、そして投資一任業務しか、業務として行うことが出来ないのです。ですから、投信会社がファンドの運用業務以外の業務、例えば、土地を購入してゴルフ場を建設したり、マンションを建設しようと思ったけれども、バブル崩壊でおおや られしました。といったことはあり得ないんです。

 以上のことから、投信会社が、バブル崩壊の過程で、経営内容を悪化させてきていることはないと言うことがお分かりだと思います。実際、最近設立された投信会社を除いてほぼ全ての投信会社が黒字となっておりますし、会社自身の資産内容も健全なものとなっております。


 ただ、投信会社が人事面で関係証券会社とのつながりが深いのは事実です。また、販売投資信託の多くの割合を関係証券会社に依存しているのも事実です。そのため、販売証券会社の破綻は、大手販売チャネルを失うことになり、中期的には経営の悪化は避けられないでしょう。これらに対して、直接販売や、関係会社以外の証券会社による販売、そして、銀行の窓販等によって、補うことが出来れば、十分経営を続けることは可能となるかもしれません。しかし、これらの点は結局は、経営者の業界環境への認識、そして経営判断になってくると思われますので、もしかしたら最終的には、投信会社を解散することも視野に入ってくるかもしれません。これは、現在、いずれの投信会社も結論を出していないようですので、これ以上の解説は不可能となります。また、販売証券会社の事務手続きが終了した際に、その後に、既存のファンドの事務手続き(分配金お支払いや償還金の支払い、そして基準価額の通知等々・・。)をどの証券会社、または事業会社が引き継ぐのか、またはその投信会社が電話対応と銀行への振り込みによって、対応をしていくのかと言ったことも、明らかにされておりません。これらに関しては、販売証券会社の精算が進むに連れて明らかになるものと思います。

 以上、今回の証券会社の相次ぐ破綻において、投資信託の扱いがどうなるか、解説してみました。最後に、投資家の皆様には、冷静な対応をお願いしたいと思います。また山一証券、三洋証券の社員、及び関係者の方には、今後の生活に対して不安も大きいと思いますが、まずは投資家の方々の不安を取り除くべく、さらなる努力をお願いしたいと思います。

(注)両社の社員、及び関係者の方が読まれると、非常に不愉快な表現となった点も多いと思いますがその点は平にご容赦下さい。m(__)m また、これらの方々が明るい将来を描けるような対策を、両証券会社が全力で執り行うことを、期待しております。両証券会社のみなさん、頑張りましょう!


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