投資信託改革

 昨日の日経新聞に投資信託改革の概要が報道された。この詳しい内容はこちらをご覧いただくとして、報道された内容に関してどういった影響があるのかを検討してみたい。法整備の対象となる項目としてあげられたのは次の6つ。(1)投信会社を免許制から認可制へ、(2)投信商品を承認制から届け出制へ、(3)思慕投信の解禁、(4)運用の外部委託の解禁、(5)会社型投信の解禁、(6)銀行、保険会社本体の窓口販売、である。  まず第1点目の投信会社の免許制から認可制への移行であるが、これによって誰でも投信会社を設立できるようになるかと言えば、そうではない。もともと免許を与える条件として、資本金や黒字化できるまでの期限などの条件や独立制を保つために設立母体の投信会社に対する人的資源や出資割合に対する制限など様々な要件を満たして、初めて免許を貰えたのである。この条件が認可制になった途端に廃止されるとは思えない。実際、顧客の重要な資金をお預かりするのだから、それなりの経営の健全性や資本力などが必要とされるだろう。つまり投信会社になるための条件を緩和すると言うよりも、条件が整った申請ならば、設立母体に関わらず、投信会社の設立が可能になると言う考え方が正解だろう。投信設立申請者に無秩序に設立を認めても、業界の成長に寄与するとは思えない。全てではないにしてもたった1社が、顧客の金をだまし取っただけで、業界全体の信頼が揺らいでしまうのである。牛のオーナー制度のように。

 第二点の商品の承認制から届け出制への移行に関してであるがこれによって、パフォーマンスが各段に向上し、投信に資金が向かうと考えるのは早計である。マスコミ報道においても、商品の多様性が投信の発展に欠かせないといった意見をよくみかける。日銀の駐米参事の方も、このような見方をされていた。しかしこれは間違いである。ファンドの本数は米国が約6,000本に対し日本は約4,000本である。運用会社の数が米国が星の数ほどあるのに対し、日本が20社強であることを考えても、商品の多様性と言う観点からは日本の方がずっと進んでいるのである。株式ファンドだけ見ても米国ではバリエーションファンド、インカムファンド、グロースファンド程度である。これに投資対象国や投資対象業種を特定することでファンドの数が増えているだけである。これに対し日本では低位株に投資するファンド、低PERの銘柄に投資するファンドから、メディア関連に投資するファンドや2,000年問題に投資するファンド等、様々なファンドが設定されている。日本で存在しないファンドと言えば地方債ファンド等日本にマーケットが存在しないような有価証券に投資するファンドくらいである。この規制緩和によってメリットを受けるのは新商品の開発におけるコストを引き下げることが出来るというくらいである。実際現在の投信商品に対する運用規制を考えた場合、米国よりもずっと規制がゆるいと考えたほうが良い。米国では日本のダブルベアみたいな商品は認可されないだろうから。

 第三の私募投信の認可である。これによって、ヘッジファンドの設定が可能になると考える方もいるようであるが、これもちょっと見当違いと言えよう。米国においても私募投信=ヘッジファンドではない。米国では公募投信に関する運用の規制(例えば信用取引による売りや純資産総額に対するレバレッジの比率に対する規制)が日本以上に厳しい。そのためこの規制を逃れるために、私募投信(確か100人以下に販売される)という形態をとるのである。ところが日本の場合公募投信と言えども、実際に購入する顧客は一人でも構わないのである。公募といえるだけの顧客見込み者に対し販売活動を行えば良いのである。私募投信のメリットは特定顧客の要望する商品を設定するときに、わざわざ大量に受益証券説明書やパンフレットなどの販売促進費を使う必要がなくなるといった効果のほうが大きいと思う。

 次に運用の外部委託の解禁であるが、現在もアドバイザー契約と言うかたちで本質的な運用機能を他社に委託する方式は存在した。ただ、あくまでも投信会社が運用を行っているという形式を維持するための伝票作成などのコストがかかっていただけであり、この規制緩和によって、そういったコストが削減できると言うメリットしかないのではないだろうか。

 会社型投信については、ファンド運用のために設立した会社が生み出した利益に対して税金をどうするのかがはっきりしないと、導入するメリットがあるかどうか断言できない。

 最後の銀行、保険会社本体での窓口販売の解禁は販売チャネルの増加と言う意味で非常に意義は大きい。特に日本のように銀行に対する信頼が高い国では、銀行が投信販売を始めることで新たに投信購入を考える層は、多々存在すると考えている。ただ個人的には、郵便局での販売を解禁してほしいと考えている。コンビニも投信販売として魅力的であると思うが、公共料金支払いと違って、扱う金額が半端ではない。アルバイトに任せられるのかという問題がつきまとう

 以上、今回発表された改革に対して、思いつくままにその影響を書き連ねてみた。読者の中には、私が非常に否定的に捉えているように感じる方もいるかもしれないが、そんな事はない。投信改革は絶対に必要なことである。しかし、これによって投信に資金が集まるようになると考えるのは早計であると言うことを述べたいのである。こういった改革は将来環境が良くなった時に有効なのであって、現在時点で投信資金を増やすためにはそれほど有効ではない。それよりも、株式市場そのものの改革や経営者の意識改革、そして国民全体の株式市場に対する意識を改革していかないことには、何も変わらないと言うことを言いたいのである。株価は経営方針に何も影響を与えないと言い放つような経営者、株主よりも従業員が大切だと言い切る経営者が、経済界を闊歩している中では、何も変わらないのである。


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