PBR

 現在PBRが1を割る銘柄の数が上場株式数の3分の1を占めるまでになっている。何故こんな事になっているのだろうか。いくつかその要因を考えてみたい。

 PBRは株価純資産倍率と訳され、株価が純資産の何倍まで買われているかを示す指標である。計算式は(株価÷一株当たり純資産)で示される。PBRが1倍と言うことは、バランスシート上の一株当たりの価値と同じ値段で、株式が売買されていることになる。PBRが1倍以下と言うことは、株式を全部買い取って、会社の資産を全部売却してしまえば、儲かる水準と言うことだ。そのため普通は、株式全体が下がっても、PBRが1倍を割ることはきわめて珍しいのである。

 PBRが1倍を割る理由の一つとして、将来赤字になることが見込まれる場合があげられる。利益が減少しても、純資産は減少しない。しかし赤字になると、資産を食いつぶすことになるので、純資産が減少する。これを予見して、株価が一株当たり純資産を下回ると言うことはあり得る。しかし、いくら景気が悪化しているといっても、上場企業の3分の1が赤字になるような自体ではない。つまり、この要因だけで、PBRが1倍を割れている銘柄がこれだけ増えた要因を説明することは出来ないのである。

 次に考えられるのは、倒産プレミアムの増加。金融機関の貸出態度が厳しくなっていることは日銀短観を見ても明らかである。企業は黒字でもキャッシュが回らなくなれば倒産する。実際数年前に、ある店頭公開企業が、業績が相当伸びるという予想であったのにも関わらず、倒産したことがあった。中小企業においては、銀行が金を貸さないと言った途端に、危なくなる企業が多いのである。これを嫌って、PBRが1倍を割れる水準まで株価が売られているという説明だ。中小型株式で株価が売り込まれている銘柄にはこの要因が多いのだろう。ただこれも、上場株式の3分の1がPBR1倍を割れている要因全てを説明できない

 第三に貸借対照表自体が信用できないと言う点が上げられるだろう。資産の評価に際し、時価で評価されていない資産が多くある。特に地価に対しては、簿価を大幅に上回っている企業がある反面、バブル期に土地を購入した場合には、簿価を大幅に下回る価格になっている可能性が高い。そうすると、時価評価した際の純資産は、現在計算されている純資産とは全く違った様相を示すことが考えられる。その上、資産として計上されていない資産、例えば保証債務などがあった場合には、もう、アナリストと言えども分析できない状況だ。こういった、バランスシートへの不信感が必要以上に株価の下落に対してネガティブに働いていると言えるのではないだろうか。

 第四に敵対的買収が難しいという点が上げられるだろう。純資産倍率は最初に説明したとおり、その株価で株式を買い集め、資産を切り売りしたらとの仮定に基づいた指標である。つまり、日本では非現実的なのである。日本では敵対的買収は受け入れられにくい。つい数年前にも某自動車部品会社の株式が買い集められたことがあったが、結局経営に参加することは出来なかった。敵対的買収を想定する必要がないから、経営者は自分の会社の株価がPBRで1倍を割れても、「株価は実態を表していない。」とか「株式をあげるための経営はしない」等とのんきなことを言っていられるのだ。欧米でも敵対的買収が賞賛を持って受け入れられるわけではない。しかし、通常の商取引の中で行われた場合、それを拒むものは何もない。敵対的買収の可能性があるとしたら、経営者はもっと株価に敏感になるだろう。PBRが1倍を割れるような局面では自社株買いを積極的に行うだろう。実際、収益性の低い事業を行っている場合、自社株買いの方がよっぽど有効な資金の活用法になる。

 こうしてみてみると、株価の低迷を打開する方法として、方策が全くないわけではないと言うことが見えてくる。例えば企業会計制度の変更。バランスシートの計算をワールドワイドで信用できる方法に変更することは、バリエーション投資家にとって、投資する勇気を与えてくれる事になるだろう。PBRの低い銘柄への投資、いわゆるバリエーション投資は非常に長期的な投資である。割安であるからいつかは現在よりも高い株価になるだろうと言うことで投資するのだから、短期的な投資には向かない。日本の機関投資家のように半期で業績が評価されるような投資家は買いづらいのである。しかし欧米の投資家の場合、機関投資家と言ってもそのスタイルは多様であり、バリエーションで投資する機関投資家も数多い。そしてそういった投資家達は、バランスシートが信用できるとしたならば現在の株価でも、十分食指を動かしてくるような銘柄が数多いと思うのである。

 敵対的買収が難しいという点も一つ前例が出来れば、見方は変わるだろう。第二点目に説明した倒産プレミアムは、今までは上場企業は倒産しないという神話の中で考える必要のないプレミアム(リスク)だったのである。しかし、上場企業が倒産するという前例が相次いだために、そういうリスクを考えて投資する必要が増えてきた訳だ。敵対的買収も前例を一つ認めることで、見方は全く変わる可能性を秘めている。それがよい事かどうかは別にして。




株価

 日経平均が年初来安値を割り込んだ。20年移動平均線(現在16,600円くらい)も目前に迫ってきている。これを割り込むようなことになると、もう下値は見えなくなるだろう。景気に対するセンチメントが非常に悪化しているのが、この要因。自動車の国内販売は冴えない。住宅着工の落ち込みも回復していない。その上、最後の砦だったパソコンも国内での売上げは伸び悩み気味。明かりは全く見えない。その上、今まで堅調だった米国市場においてもインフレ懸念から金利引き上げが真実味を帯びてきた。これを先取る形で先日ドイツのオペ金利が引き上げられた。株価があがる材料は全く見えない。今月下旬には経済対策が発表されるが、これに対してもあまり期待出来そうにないと言う見方が支配的だ。

 しかしながら、逆に言うと今まで楽観的だった政府当局の景気に対するセンチメントも悪化してきたと思うのです。月例経済報告や日銀短観からも景気の先行きに対する楽観的なコメントが減ったように思います。本日は橋本首相が足下の景気に対して厳しい状況判断を示しました。今まで楽観的だった政策当局が、景気に対する判断を後退させているのは、株式市場にとって良い兆候だと思うのですが、如何でしょうか・・・。


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