再版制度

 某K書店という出版社が今月末に株式市場にデビューする。本日は公開前の説明会があったので社長の話を聞いてきた。出版社の場合、再版制度の廃止と言うやっかいな問題が迫っているので、質問はこのことに集中した。私が聞きたかったのも、この問題につきる。

 再版制度によって、出版社は定価で本を販売することが出来、その販売は書店に委託する事になる。売れ残った書籍は全て,出版社が引き取ることになるので、返本のリスクが非常に大きく、これが経営を圧迫している出版社もあるようだ。スピリッツという成年向け週刊誌でも、「編集王」という漫画で、再版制度については詳しく述べられていますので、興味のある人は読んでみてください。

 一般的には、再版制度の廃止によって、本の価格は下落し、出版社も収益が上がらなくなると見ている人が多いようだ。ただ、上にも述べたとおり、返本のリスクを今まで抱えていた出版社にとっては、このリスクがなくなるというメリットもある。結局はマネージメント次第ということだろう。再版制度が廃止されるかどうかも今の段階ではわからない。この社長は再版制度は廃止されるだろうし、また廃止されるべきだと言っている。そして、再版制度の廃止を出版ビッグバンと表現し、これに備えて、会社をマネージメントしていく決意のようだ。そのためには、distributionを如何に押さえるかが重要だとも語っていた。

 翻って、わが証券界の現状を見ていると、金融ビッグバンが来ることを望んでいるのは外資系や、優秀な経営者のいる一部の中小金融機関のみだ。そして金融ビッグバンへの対応も、いまだにお粗末な限りだ。何故このような事になっているのだろうか。

 経営者が無能だからと結論づけるのは簡単だ。しかしそれでは改善も発展もありえない。より詳細な原因を探る事で、対応も可能になってくるのだろう。

 当初証券界は金融ビッグバンに反対の意向を示していた。自分たちに有利になるような規制緩和は賛成だが、不利になるような緩和には絶対反対。これはどの業界にも共通しているだろう。業界全体が不利になるような行政の変化には誰だって反対する。しかし、K書店の社長は、反対を叫ぶことでそれが通るとは考えていない。どちらがあるべき姿かを公平に考えて、将来の行方を占い、それに対してどう対処するかをマネージメントしているのだ。しかし証券界では、反対することで、規制緩和は行われない、よって対処を検討する必要はないと言う考え方が蔓延していたのではないか。これが、対処を送らせた要因になっているのではないかと思うのである。

 つまり、経営の選択は、行政の方向性に反対か賛成かで決まるものではなく、行方を正確に見すえ、これに対応していくことなのである。その業界独自の判断基準をもとに経営を決めるのではなく、利用者、ユーザーがどちらを望んでいるかをもとに、業界環境の動向を見すえ、それに対応した経営を行っていかなければならないのではないかと思うのである。これを出来ない経営者の会社は、いずれ、朽ち果てることになるのだろう。

 先日話を聞いてきた、某建設コンサルティングの会社の時も同様のことを感じた。コンサルティング会社の必要性をとうとうと説いた後に、だから当社は成長出来るんだ。だから経費ももっとどんどんかけていかなければならないんだ。といった説明をしていた。足元を見ようとしていないのだ。これでは、投資家として、この経営者に経営を委託する気にはならないのである。


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