欧州旅行記 第二日目

 朝、目が覚めて、時計を見ると、まだ午前三時であった。やはり時差ボケであろうか。体が日本時間を覚えているのであろう。しかし、こういう時差ボケなら大歓迎だ。目が覚めるとチェックアウトの時間を過ぎていたとなると、問題だが、朝早く目が覚める分には、時間が有効に使える。欧州にいる時間は限りがあるのだから、眠る時間を苦もなく省略できるというのは、本当に有り難い。

 前日の旅行記をまとめ、メールをチェックして、ミュンヘンのcompuserveの電話番号を調べて、niftyにアクセスしてレスをつけ、シャワーを浴び、荷造りを終えると七時になってしまった。朝食はバイキングである。パンとハム、それにコーヒーをいただく。ま、高級ホテルでもないですから、こんなものでしょうな。本日は午後三時41分の汽車でフランクフルト向かう予定なのだが、それまでに少し、ミュンヘンを観光したい。そこで、まずチェックアウトした後、中央駅に向かいコインロッカーにスーツケースをしまい込んだ。これで身軽になった。まずは市内電車でニンフェンブルク城に向かう。市内電車の乗り方と時刻表の見方がよく分からない。同じ番号なのに行き先が違う電車があるのだ。不思議に思いつつ多分これだろうと言う電車に乗り込んだ。そうすると前から同じ番号で行き先が違う電車がやってきて初めて理解した。つまり始点と終点なのである。行きの便と帰りの便では終着駅は違うが、線が同じなので番号は同じままにしてあるのである。これはわかりにくい。やっとニンフェンベルク城に着いた。開館時間は九時なので、あと五分程度である。中庭を覗いて時間をつぶした。

 城の前の池で白鳥が悠々と泳いでいる。なんか綺麗だなぁと思い、デジタルカメラで撮影しようとしたら、

「オー マイ ゴッド!!!!!!!」

 なんと、デジタルカメラの液晶表示板に、「バッテリーがありません。」の表示が・・・。デジタルカメラは充電バッテリーで駆動しているのだが、すぐに放電してしまうのである。昨日、充電しておくべきだったと悔やむことしきりである。使い捨てカメラも予備に一つ持っておくべきだったかもしれない。こちらには、使い捨てカメラなんて売っていないようである。そんなわけで、残念ながら、今日の観光地に関しては写真無しだ。

 入館チケットを購入して、城の中に入る。入った途端に天井いっぱいにフレスコ画である。すごい。右の部屋に入っていくと、美人画ギャラリーだ。なんとなく、日本人に見えなくもない。左の部屋にもびっしり絵が飾られてある。なんか見ているだけで幸せになってくる。その後庭園に出てみる。装飾庭園は規模が小さく、この程度なら日本にいくらでもあるぞと思ったが、よく見ると真っ赤なバラが雨露に濡れて、妙な色気を持っていた。地図を見ると庭園が縦長になっているのだが、その奥の方にアポロ神殿というのがある。やはり見てみたいと思い歩き始めたが、30分ばかり歩いてようやく辿り着いた。見てみると、丸い屋根に柱が数本着いているだけの簡素な神殿だった。しょうがないと戻り始めたが、同じ道を戻るのもつまらないのでバーデンブルク池のほとりを歩いて戻ってきた。途中にアマリエンブルクというロココ式小宮殿があった。中にはいてみると、壁一面に青い色で植物や動物の模様が書かれている。それにしても、この青い絵の具で壁一面に書かれた絵は日本の墨絵にも通じるものがあるのではないだろうか。ウェッジウッドのお皿の絵の感じにも似ている。ベッドが置かれていたが、随分小さいので多分、いつの時代かの王様が娘のためにこしらえたのであろう。そう思うと、壁に掛けられている絵が随分漫画チックなのもうなずける。しかし、小さな女の子に宮殿を造って豪華なベッドや絵を与えるよりも、同じ年頃の女の子と遊んだり、お父さんやお母さんにじゃれあったりした方が、喜ぶのではないだろうか。

 この小宮殿を出て、城の入り口南側にある馬車博物館に入った。馬車が展示されているのだがちょっとそっとの馬車ではない。タイヤのホイールからドアのノブまでいいたるところに木彫りの装飾が施されているのだ。ドアのところには絵が描かれている。本当にこんなのに乗っていたのだろうか?奥の部屋には馬の絵がたくさん飾られていたが、これは私には全然分かりません。馬の好きな人なら喜ぶんだろうなぁ。ここを出て二階に上がると、陶磁器が展示されていた。ここだけは妙にチェックが厳しかった。手荷物を取り上げられ、その上、預かり賃をよこせというのだ。随分横柄な商売だ。ま、展示されているものがものだけに、盗まれる可能性もあると言うことだろう。この陶磁器を見ているとドイツ人というのが何となく見えてくる。とにかくマメだ。そして職人気質。お皿一つ作るのに一生をかけたのではないかと思えるようなすごいお皿が何枚もある。しかし、これらは大量生産は無理だろう。つまりたくさんの人を喜ばすのではなく、特定の人を喜ばすものである。だって、お皿なんて、飾っておくものではなく、食べ物を置いてこそなんぼだと私は思うのだ。

 ニンフェンベルク城を出ると11時になっていた。マリエン広場に行ってから昼食を食べようと今朝乗った市電と逆向きのに乗った。ずーっと乗っているとマリアンヌ広場という駅があったのでここだと思い、電車を降りたが、地図には乗っていない川がすぐ近くを流れている。よくよく地図を見てみると、マリアン広場とマリアンヌ広場は違うようだ。あわてて近くの人にどうやったらマリアン広場にいけるか訊ね、近くの駅から地下鉄に乗り込んだ。

 マリアン広場に着くと、丁度、新支庁舎の二段仕掛けの時計が鳴り出した。お昼である。鐘の値を聞き終わった後に、目の前にあったラーツケラーと言うお店に入った。ドイツ人はお昼を豪華に食べると聞いていたので、私もそれをまねることにした。ビールと、ソーセージを頼むとパンがおまけで付いてきた。このパンがまずい。一つは鎖の形をした固いパンだがこれは妙にしょっぱい。もう一つの丸いパンはセロリのような味がする。どちらもちょっと私の口には合わないようだ。だがビールを二杯飲むと結構お腹は一杯になった。その上に、デザートを食べると満腹である。満足して店を出た。先ほどちらちら降り出した雨もやんだようである。その足で聖母教会に向かった。

 教会であるから、宗教美術のオンパレードになるわけだが、妙にリアルな絵や彫刻があって、ちょっと辟易する。キリストの張り付けの彫刻などは、手や足に刺さった杭を妙にリアルに表現している。そこから血が滴り落ちるのまで表現しているのだ。

 教会を出て、レジデンツ宮殿に入った。ここは入館料が10DMとちょっと高かったが、見応え十分の博物館になっている。じっくり見ようと思ったら、丸一日あっても足りないのではないだろうか。何度も増改築が行われたらしく、部屋によって、作りが全然違う。その中に、宝石とか王冠のような装飾品、陶磁器、絵画などが陳列されていた。しかし、この装飾品は趣味が悪いものが多い。まずごてごてと宝石をいくつもちりばめている王冠。よく言えば豪華絢爛、悪く言えば芸術のかけらもないような作品である。金にまかせて作らせた作品であろう。また、骸骨に飾りをつけて装飾品に仕上げているものもあった。手のミイラを金の装飾を施して飾ってあるものもある。悪趣味としか言いようがない。途中でガラス細工の作品があると、妙にほっとする。銀細工の食器類も見事だった。陶磁器も一つ一つに綺麗な絵が描かれてあって、うちにも一枚ほしいくらいである。私は飾るのではなく、実際に使いたいと思うが。

 それにしても、装飾品をドイツ人に作らせると、手先の器用さが災いしてか、ごてごてした趣味の悪いものになってしまうようだ。とにかく、どんな小さいところにも、彫り物か、書き入れたような装飾が施されており、すごいと言えばすごいが、なんか落ち着かない。こういうのを見ていると、シンプル イズ ベストだと思ってしまう。しかし、そのごてごてした装飾が部屋全体に及ぶと、驚嘆せざるを得なくなる。すごすぎるの一言である。部屋全体を装飾品に見立てたように、彫り物を張り巡らされているのを見ると、作り手の執念みたいなものすら感じてしまう。

 もっとゆっくりと展示品を見たかったが時間がない。中央駅に向かい、荷物をコインロッカーから取り出し、フランクフルト行きの汽車に乗った。この汽車は実は結構期待していたのだ。窓から綺麗なお城とかが見られるかなぁと。しかし、ほとんど何も見えなかった。森の中をただひたすら走り続けただけである。七時半にフランクフルトに着いた。

 ホテルに到着し、メールをチェックしようとしたが、電話がつながらない。compuserveもつながらない。あきらめて、夕食を食べに外に出た。本日は日曜日なのでほとんどの店が休みである。開いてる店も入ろうとすると、もう店じまいだと断られる。途方に暮れていると、ビールを置いているファースドフード店のような店が目に留まった。入って、ビールとハンバーガーを注文する。何とか夕食にありつけた。そこで、他の来店客を見ていると、たくさんの人がジュースを買いに入ってくるのだ。それも普通の店に売っているような瓶のジュースだ。そして栓を抜きながら店を出ていく。そういえば、外には自動販売機らしきものはほとんど見あたらなかった。昔、ドイツ語の先生(ドイツ人)にも、「日曜日に来客があって、もてなさなければならないときには、近くの料理屋さんに行って、食材を分けて貰う。」と聞いたことがある。ドイツの食い物屋さんは、日本のコンビニやスーパーの役割も果たしているのだろう。

 夜も遅くなったのでホテルに戻ることにしたが、どうも雰囲気が良くない。性風俗の店が多いし、酔っぱらいが道路にたむろしている。でかい声で叫んでいる酔っぱらいもいた。さっきのファーストフードの店のお兄さんもあまり、愛想は良くなかった。ミュンヘンとはえらい違いだ。景気が多少はよいので愛想が悪くても客が入ってくると言うことだろうか。フランクフルトに対してあまり良い印象は持たずに眠りにつくことになった。


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