がんばれ扇大臣!

 扇千景国土交通相が「住宅金融公庫の財投借り入れを前倒し返済できない」ことで財務省にかみついた記事が何日間かに渡って新聞紙上をにぎわした。国土交通相はその後も繰り返し主張していたようである。これに対し、「このクレームはあまりにも無知。財務省にクレームをはねのけられて当然。」と考える人が多い。しかし、私はそうは思わない。住宅金融公庫の民営化、または一般勘定からの補填を減らしたいのであれば、既存の貸付を証券化し、その資金で財投資金を期限前償還して、損失額を減らしていくのが当然だと思う。それが、住宅金融公庫の無策のつけを財投に押しつけていることにはならない。逆に、住宅金融公庫の逆ざやはマクロ的に解決すべきであり、その一番単純な方法は、扇大臣の主張する、財投借入の前倒し返済なのである。

 まずは住宅金融公庫の現状についてまとめてみよう。住宅金融公庫のホームページには、平成12年度の損益計算書と貸借対照表が掲載されている。民間の財務諸表とはちょっと違うが、運用利回り、借入利回り、そして逆ざやについて計算する分にはこれで十分だ。まず、運用利回り、つまり「どの程度の貸付金利で運用されているか?」だが、貸付金利息が2,684,987百万円、未収利息が257,032百万円。これを貸付金残高75,922,074百万円で除すと、3.88%となる。これに手数料も加味すると、3.91%だ。つまり運用利回りは3.91%と考えればよい。現在、保険会社の平均予定利率も3〜4%位だから、まぁ、この数字に大きな間違いはないはずである。これに対して、借入利回りだが、まず財投資金などの借入を見ると、利息が3,018,737百万円、未払利息が733,161百万円、これに対し借入金残高が74,853,314百万円だから、借入金利回りは5.01%となる。一方発行した債券の利回りは、利息27,246百万円、未払利息2,336百万円に対し、残高が1,797,655百万円なので、利回りは1.65%なのである。つまり、長期で借り入れている財投資金の金利が5.01%なのに対し、債券の利回りは1.65%なのである。5.01%の借入を返済して、1.65%で借り直すと、それだけで、逆ざやが解消するのは明白だろう。ちなみに借入金と債券を併せた金利は4.93%であり、これと運用利回り3.91%の差額1.03%が逆ざやとなる。これに借入総額をかけると約8000億円の逆ざや額が算出されるのである。

 次に貸借対照表を見てみると、貸付金が総資産の97.7%を占める。これに対して借入金が96.3%、債券が2.3%である。つまりB/Sの左側は殆どが貸付、そして右側の殆どが借入金である。その借入が5.01%、貸付が3.91%で1.03%の逆ざやが存在するのだから、当然その逆ざやは誰かが補填しなければならないのである。住宅金融公庫自身にそれを何とかする能力はない。何とかするとなると、貸付金利を3.91%から5%以上に引き上げるか、借入金金利を3.9%以下に引き下げるしかないのである。

 では何故、これだけの逆ざやが生じたのだろうか。貸付金利の設定時においては、財投金利を下回る金利での貸付は行っていない。つまり、貸付時の金利を維持できていれば逆ざやは生じないのである。では、民間の銀行と同じように貸倒がたくさん生じて、当初予定していた金利を得られなくなったのだろうか。それも違う。基本的に住宅取得資金は事業資金の貸倒と違って貸倒が少ないのである。借りる側にしてみると、住宅ローンの返済が滞れば住むところが無くなってしまうので、何が何でも返済しようとする。少し無理して生活を切りつめて、更にパートなどで収入を補填してでも何とか返済しようとするのである。従って、貸倒が逆ざやの理由ではない。逆ざやの大きな理由は金利低下に伴う借換である。5%で住宅ローンを借りた人が、2%まで借入金利が下がれば当然、5%の借入を返済して2%で借り直すだろう。この結果として、住宅金融公庫の貸付利回りが3.91%まで低下しているのである。もし借換がなければ、住宅金融公庫の平均借入金利である4.93%を十分に上回っているはずなのである。

 では、住宅ローンの条件として期限前返済を不可能にすれば良かったのだろうか。期限前返済の出来ない住宅ローンにはその商品価値はない。期限前返済によって、予定より早く、ローンの呪縛から逃れようと頑張る人もいるだろうし、逆に返済できなくなったら、家を売って期限前返済出来るからこそ、家を買ってローンを組む人もいるだろう(現在の環境では不動産の値下がりから、売却資金でローンを返済するのは不可能ですけどね。)。いずれにしろ、期限前返済の出来ない住宅ローンは逆に、借りるのが怖いのではないだろうか。つまり、住宅ローンに期限前返済という制度があった事が問題なのではなく、貸付の期限前返済による運用利回りの低下に合わせて、借入金利即ち、財投金利の借入金利を下げることが出来なかった事が問題なのである。住宅ローンの期限前返済、そして借換に伴う運用利回りの低下と同時に、財投の借入金利も期限前返済して借換が出来れば、現在も十分な利鞘が確保できていたことになるのである。そうでなければ、逆に市場からの調達を増やし、多様な年限の債券を発行することで、借入金利を貸付にあわせて柔軟に対応していくことも可能であったはずである。

 専門家に言わせれば、「何故、資産(貸付)を証券化して、逆ざやのリスクを外部に切り離さなかったのか?」と言うことらしいが、証券化が可能になったのはごく最近のことである。それまでは、証券化を行うための法律が整備されていなかったため、不可能だった。また法律が整備されていたとしても証券会社が、証券界に対応できなかっただろうし、出来たとしても顧客が期限前償還のリスクを認識できなかっただろう。従って、証券化によって現在の事態は回避できたはずとするのは、間違った議論である。また、財投借入は返済できないと考えている人もいるが、そんなことはない。実際過去に130以上の団体が前倒し返済をしている。

 つまり、住宅金融公庫の逆ざやは、住宅金融公庫固有の問題ではなく、財投制度を含めた国全体のマクロの問題なのである。従って、そのつけを住宅金融公庫が、独自に解消できるのであれば問題はないが、独自に解消できない場合は、財投を含めてマクロで対応して行くべきであり、将来的に住宅金融公庫の民営化、または公社化を目指すのであれば、そのつけは住宅金融公庫から取り去るのが当然であろう。従って、扇大臣の主張する財投資金の前倒し返済は十分に理屈のつく主張なのである。住宅金融公庫が民業を圧迫せずに、規模縮小をはかり更に、国からの資金投入を必要のないものにするためにも、財投資金の前倒し返済を認めるべきであろう。ただし、発行している債券の前倒し返済は、マクロでの政府のツケを民間に押しつけるものであり、更に市場の混乱を招くことになる。つまり百害あって一理無しであることは言うまでもない。



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