MMF元本割れ

 先日、某投資信託委託会社のMMFが元本割れとなった。いくら投資信託は「元本保証ではない」と言っても、安全な商品と位置付けられているMMFだけに、衝撃を受けた人も多いのではないだろうか。

 MMFは投資信託である。投資信託という事は、元本保証の商品ではないという事だ。しかし、MMFは基本的に短期金融商品で運用される。一部、利回りを上げるために長期の債券を組入れてはいるものの、その比率はごく僅か。債券の価格変動によって、MMFの元本が割れてしまうような、組入れ方をするはずが無い。また、資産の15%までは、満期保有目的の債券と分類して、簿価評価し、時価を基準価額に反映させない事も可能である。つまり、普通に運用している限り、元本を割れるような事など、想定しようがないのだ。MMFは安全な商品と考えて間違いは無いのである。

 では、この某投資信託委託会社は、相当リスクを取り、元本が割れるかもしれないようなリスクを取って運用していたのだろうか?これも、多分否である。実際にどうなのかは、その会社の人でないと分からないわけだが、恐らくそのようなリスクをとっていたとは思えない。MMFは業界共通の銀行預金に対抗する商品である。一社だけがその商品性をねじまげるような運用をするはずが無いのである。

 では、何故元本が割れたのか。この会社のMMFが元本を割る数日前に、親会社の経営者が詐欺で逮捕された。このニュースによって、MMFの預かり資産のうちの大部分が、解約となったのだ。解約のために、運用者は保有資産を売却して現金にしなければならない。新聞によると、この会社は解約に対応するために、資産の約8割を現金化したとのことである。

 債券を時価で評価していれば、何も問題はないではないかと考える人もいるだろう。しかしそれは違う。時間をかければ、評価価額で売れるのかもしれないが、今日中に売りたいとなれば、買手も足元を見るだろう。株式と違って、債券は取引所一箇所にみんなが集まって売買しているわけではない。各証券会社に幾らなら買うか電話で聞いて商いをするのである。証券会社もお客に電話して、こんな売り物があるんですけど、幾らなら買いますか〜。売り手は今日中に売りたいそうですから多少は安く買えると思いますよ〜なんてやるのだろう。株式だって、店頭株を一度で保有株全部売ろうと持ったら、ストップ安まで売りにいっても売れないものである。ましてや、そのように相対取引で商いが行われる債券である。今日中に売りたいとなれば、売りたい値段で売れるはずが無いのである。

 時期も悪かった。半年前までであれば、短期金利はゼロ。簿価評価している債券でも、その簿価に比べ時価は相当上回っていたはずである。時価よりも低い値段で売却したとしても、その傷口は浅く、元本割れに至る事は無かったであろう。しかし、ゼロ金利は解除されてしまった。金利はゼロ金利時に比べ上がっているのである。

 つまり、MMFは非常に安全な商品であり、資金の移動に問題が無ければ元本を割ることなど無いのである。この投信会社のMMFにしても、解約が一度に来なければ、元本を割ることは無かったであろう。

 投資信託は、非常に難しい商品である。今説明したように、解約が無ければ元本を割ることは無いのに、みんな「元本を割る前に解約しようとする」ので、その結果、元本が割れてしまうのである。そろそろ、MMFを購入する顧客にしても、投信はその販売会社や親会社の信用度は全く関係無く、運用されているという事を認識すべきであろう。

 それでも心配なら、資産の小さいMMFは購入しない事である。100億円のファンドが一気に50億円になることはあっても。1兆円のファンドが一気に5000億円の解約になることは、考えにくいのだから。



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