イリジウム

 63丁目、リンカーンセンターのすぐ横に、イリジウムというお店がある。レス・ポールというギタリストが経営しているライブハウスだ。そして、レス・ポールも毎週月曜日には、ここに登場して、演奏を披露してくれる。

 開店は7時。開店の10分ほど前にお店の前に行ったのだが、既に20人近く並んでいる。ブルー・ノートやスウィート・ベイジルでは考えられない。地元の人たちにとっては、こちらの方がポピュラーなのだろうか。

 ショータイムは8時45分。ステーキを注文し、ビールを飲みながら、ショーが始まるのを待つ。向かいに座った男性が「俺はマオって言うんだ。よろしく。」と声をかけてきた。ロスでパソコン部品の会社に勤務。セールスでNYに来たらしい。ボードに特化した会社で、急成長を遂げているようだ。新しい会社なのか?と聞くと、「いや、結構古いんだ。設立は20年前だから。」とのこと。20年前に設立した会社が、古い会社にカテゴライズされるというのは、アメリカならではだろうか。

 ショーが始まるまでの時間というのは、一人の場合、非常に苦痛な時間なのだが、彼のおかげで楽しく過ごすことが出来た。二人で、音楽の話やミュージカルの話で盛り上がる。彼は、水曜日にはロスに戻らなければならないらしく、明日はどこへ行こうかなと悩んでいた。「バードランドはどんな店だ?」「明日はブルーノートは、どんなプレイヤーが出るのか?」など、情報収集に余念がない。私もたまたま、今週の各ライブハウスの予定をチェックしていたので、「明日ならバードランドがお勧めだよ。デューク・エリントン・バンドというビッグバンドが出るから、楽しめると思うよ。お店も広いから、ブルーノートみたいに、隣に気を遣いながら食事をする必要もないし。。。」と答える。参考になれば良いが。

 8時40分にはステージにメンバーが揃い、暗転したステージのまま、演奏が始まる。ギター二人、ウッドベース一人。セミアコースティックギターを抱えた若手のギタリストが結構上手。そして1曲目が終わったところで、拍手とカメラのフラッシュに迎えられ、レス・ポールが登場。私も写真を撮ろうと鞄の中を探して愕然となった。「しまった。カメラを忘れた。」いつもと違う鞄で来たので、カメラを入れ忘れたようだ。うーん、残念。

 レス・ポールの演奏はと言うと、さすがに高齢。早弾きはほとんどないし、ミス・トーンも多い。しかし、ピッキングの力強さと、スライド奏法やプリング・オフ奏法の巧みさは相変わらず。レスポールギターの分厚い音が、彼の力強いピッキングで更に厚みを増している。簡単なフレーズなのに、前面に出てくるのだ。曲も、みんなが知っている楽しい曲ばかり。

 惜しむらくは、MCが長いこと。ショーの半分くらいはレス・ポールのお喋りに費やされていたのではないだろうか。一番前の席に座った客が、ビデオ・カメラでステージを撮影しているのを見つけ、「おいおい、ベーシストもちゃんと撮影したか?」「おい。○○(ベーシストの名前、ただし失念)、彼のために、弾いているところを見せてやってくれ。」てな具合。途中で登場した、司会者にも、「このバンドはコメディバンドか?」なんて言われながら、ショーが展開していくのです。楽しいには楽しいのですが、やはり目的はレス・ポールのギター。もっと演奏時間を多めにとって欲しかったなと思いますね。高齢で、そんなに多くの曲は演奏できないのだろうとは思いますけど。。。

 10時にショータイムは終了。余韻に浸りながら、帰宅したのでした。



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