リスクの認識

 ニューヨークに来て驚くのは、みんな信号を守らないこと。若い人だけではなく、じいさんばあさんや、子供、そして警察官までもが、車が来ていなければ、赤信号でも平気で道路を渡っていく。車が来ていても、渡れるなと思ったら、さーっと渡ってしまうのだ。これで事故が起きないのが不思議なくらいである。

 信号というのは、人間の生活が便利になるように作られたものなのだから、人間が信号に縛られる必要はないと思う。車が来ていないのに、赤信号だからといって、信号が青になるまで待たなければならないのは馬鹿げている。

 しかしながら、そういった、道路を横断する側の論理だけではなく、運転手側の認識が、日本とここニューヨークでは違うように感じる。つまり、信号が青でも、突然人が飛び出してくるかもしれないと思って運転するのと、青信号だから人が飛び出してくる可能性はないと思って運転するのとでは、何かあったときの対応が全く違うと思うのだ。後者の場合、人が突然飛び出してきたときには、対応のしようがない。つまり交通事故に直結する。しかし、前者の場合は、何らかの対応が可能であり、交通事故に結びつくことは少ないだろうと思われるのだ。

 ニューヨークの地下鉄は遅れるので有名だ。時刻表はあっても意味がない。だから、駅のホームに書かれているのは、10分おきに電車は来ますとか、夕方からは15分おきになりますといった表示だけ。日本だと時刻表がホームに掲げられ、多分殆どの場合において、その時刻表通りに運転されている。だから、予定通りに運転できそうにないときには、運転手は非常に焦るのである。そのために安全がおろそかになり、最近ではいくつかの大事故にも発展している。

 運用会社の場合、有価証券を購入したり売却した場合には、それをブローカーと照合し間違いがないかを確認した上で、データベースに計上され、それをもとに基準価額が計算されたり、バランスシートが作成されたりする。当然、データベースは正確にインプットされなければならない。しかしアメリカの会社の場合、このミスがたくさんあるのだ。毎日数多くのミスが発生している。しかし彼らは気にしない。それをカバーする仕組みが整っているからだ。ミスをチェックしそれを訂正するために監督者が存在し、その監督者がミスを厳しくチェックしているからだ。ミスをなくすためではなく、ミスをカバーするために。

 日本の場合、この業務に関しても、ミスそのものをなくそうとする。しかしミスの発生確率を0%にする事は出来ない。そして数少ない可能性ではあるものの、ミスが発生した時には訂正するのに途方もない時間がかかったり、基準価額を発表出来なくなったりするのである。

 3つの全く違う例をあげたが、ここに共通するのはリスクに対す認識である。起こっては困ること(リスク)に対して、起こらないように全力を挙げるのか、起こるかもしれないと言うことを念頭に置いて、起こったときにどのようにそれをカバーするかに全力を掲げるのか。この違いが、大事故に繋がるかどうかの分岐点になっていると思う。

 日本では、ここ数年、人災と呼ばれる大事故が立て続けに発生している。そして、これらは、リスクの可能性を排除し、起こり得ないとみんなが考えていたからこそ、起きたのではないだろうか。そろそろ日本も、リスクを完全に排除することではなく、どのようにカバーするかに目を向ける時だと思う。



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